第十二話:噂の拡散と、王都の焦燥
月光草の自生地を後にしたセレスティーナたちは、旅を続けながら、病に苦しむ人々や貧しい村を訪れた。セレスティーナは、採取した月光草を、誰もが分け隔てなく受け取れるよう、無償で配り続けた。
「この薬草は、あなたがたのためにあるのです」
彼女の献身的な行動は、瞬く間に人々の間で広まっていった。
病が癒された人々は、彼女を「聖女」と呼び、その噂は、人々の口から口へと伝わり、やがて王都にまで届くようになる。
その頃、王都のレオナルドは、ディランからの定期的な報告と、街で耳にする「聖女」の噂に心を乱されていた。
「辺境に、本物の聖女が現れたらしい」
「その聖女は、忌み子たちを導き、奇跡の薬草を貧しい人々に無償で配っているそうだ」
当初は、ディランの報告を、セレスティーナが復讐を企んでいる証拠だと疑っていたレオナルドだが、街に広まる噂は、その内容があまりにも美しく、そして彼の知るセレスティーナの献身的な姿と重なり、次第に真実だと確信するようになる。
「…私は、一体何をしていたのだ」
レオナルドは、セレスティーナを権力争いから「保護」するためと信じて追放したが、結果的に彼女を傷つけ、今、彼女が真の「聖女」として人々に称えられている事実に、深い後悔の念を抱き始める。
彼女は、王宮の権力争いに興味などなかった。ただ、純粋に、人々を救うことを望んでいたのだ。
一方、この噂を耳にしたエミリアは、焦りを募らせていた。
「聖女ですって…? 忌み子を導く魔女の間違いでしょう!」
彼女は、自分が陥れたはずのセレスティーナが、人々に称えられていることに耐えられなかった。レオナルドの関心が、再びセレスティーナに戻ってしまうのではないかという恐怖が、彼女を支配する。
エミリアは、セレスティーナを完全に破滅させるため、より卑劣な計画を立て始めた。
彼女の心には、憎悪と焦燥しか残っていなかった。
登場人物紹介(第十二話時点)
セレスティーナ・フォン・エトワール
月光草を貧しい人々に無償で配り、王都で「聖女」の噂が広まる。
レオナルド
第二王子。ディランからの報告と「聖女」の噂が真実であることに気づき、セレスティーナを追放したことを後悔し始める。
エミリア・フォン・グロース
セレスティーナが人々に称えられていることに焦りを募らせ、より卑劣な計画を立て始める。




