第十話:騎士の誓いと、新たな旅立ち
孤児院を襲った暗部の人間たちが去った後、ディランは森から姿を現し、孤児院の扉を叩いた。セレスティーナは、彼の顔を見て、これまでの出来事の背後に、彼の存在があったことを悟った。
「…ディラン様、一体どういうことでしょうか?」
セレスティーナの問いかけに、ディランは全てを話した。レオナルド殿下からの監視命令、エミリアが仕組んだ嘘の計画、そして殿下が彼女を追放した真の理由。
「…わたくしを権力争いから保護するため、ですって?」
セレスティーナは、レオナルドの苦渋の決断を聞き、複雑な表情を浮かべた。しかし、彼女の心に、レオナルドへの未練はひとかけらもなかった。彼が彼女の幸せを願うのなら、なぜ、彼女を信じてくれなかったのか。その事実が、彼女の心を冷たくさせた。
「セレスティーナ様、私は、殿下の命令に背いてでも、あなたと子供たちをお守りしたいのです。どうか、私に護衛をさせていただけませんか?」
ディランは、跪き、真剣な眼差しでセレスティーナを見つめる。
セレスティーナは、目の前の彼の姿と、その背後で成長した子供たちの姿を交互に見つめた。ハンスは、ディランから教わった剣術で仲間を守った。ルカとリリィも、それぞれの才能を活かして、自力でこの危機を乗り越えた。
この子供たちと、そしてディランの成長を見て、セレスティーナは彼の申し出を受け入れることを決意した。
「…いいでしょう。ですが、わたくしたちは、王都へは戻りません」
セレスティーナは、そう告げると、子供たちを連れて新たな場所を目指して旅に出ることを決めた。
旅は、決して楽なものではなかった。
日中は、馬車に揺られ、夜は、森の中で野宿を繰り返した。
子供たちは、文句一つ言わずに、健気にセレスティーナのそばに寄り添う。
ディランは、昼は子供たちの護衛として、夜は野営地の見張りとして、一瞬たりとも気を抜くことなく、セレスティーナたちを守り続けた。
セレスティーナは、そんな彼の姿を見て、胸に温かいものが込み上げるのを感じた。
ある夜、焚き火を囲んで食事をしていた時、ルカがディランに尋ねた。
「ディランは、どうして僕たちを守ってくれるの?」
ディランは、子供たちに囲まれ、優しい眼差しでセレスティーナを見つめた。
「…私は、あなたたちとセレスティーナ様を見て、大切なものは何かを教わった。それに、あなたたちを守ることは、私の喜びなのだから」
その言葉を聞いて、セレスティーナは、ディランが単なる護衛ではなく、もう既に彼も家族の一員なのだと確信した。
旅の途中、ディランはセレスティーナに愛を告白した。
「セレスティーナ様、私は、あなたに仕える身ではありますが……一人の男として、あなたを愛しております」
ディランは、騎士としての忠誠と、一人の男性としての愛を同時に誓った。
セレスティーナは、彼の真剣な告白を聞き、静かに微笑んだ。
「…馬鹿な男ね。わたくしに、身も心も捧げるつもり?でも…嫌いじゃないわ、その愚かさ」
彼女の返答は、愛の言葉ではなかったが、彼の愚かなまでの誠実さを認める、セレスティーナらしい言葉だった。
彼らは、王都から遠く離れた地で、新たな生活を始めることを決意したのだった。
登場人物紹介(第十話時点)
セレスティーナ・フォン・エトワール
侯爵令嬢。ディランの護衛を受け入れ、子供たちと共に王都を離れ、新たな場所を目指して旅に出る。
ディラン
王国騎士団に所属する騎士。レオナルドの命令に背き、セレスティーナと子供たちの護衛となる。旅の途中で、セレスティーナに愛を告白し、忠誠と愛を同時に誓う。
子供たち
ルカ、リリィ、ハンス。彼らは、セレスティーナと共に、王都を離れ、新たな生活を始める。