第九話:騎士の決断と、孤児院の反撃
深い夜、孤児院を闇が覆っていた。静寂を破ったのは、窓を叩き割る鈍い音だった。
ディランが森の中から見ていた通り、エミリアが差し向けた暗部の人間たちが、孤児院を襲撃してきたのだ。
子供たちは、突然の事態に怯えたが、セレスティーナは冷静だった。
「皆、わたくしの後ろに!」
彼女の指示に、子供たちは一斉に身を寄せ合った。
侵入者が部屋に踏み込んできたその時、子供たちが前に出た。
まず動いたのは、ルカだった。
「皆を守る…!」
彼は、セレスティーナに教わった呼吸法を使い、魔力を制御する。
ルカは、防御に特化した魔法を発動し、孤児院の入り口に分厚い魔力の壁を作り出した。侵入者たちの攻撃は、その壁に阻まれ、部屋の中にいるセレスティーナたちには届かない。
次にハンスが、ディランから教わった剣術の型で、侵入者たちの動きを止める。
「…セレスティーナ様は、僕が守る!」
彼は、木の棒を剣のように操り、襲撃者たちの間を縫うように動き、彼らの体勢を崩していく。貴族に虐げられていた頃の暴力的な力は、今、大切な家族を守るための「剣」へと変わっていた。
そして、リリィの番だった。
彼女は、孤児院の庭で育てた薬草を乾燥させて作った粉末を、侵入者たちの顔めがけて撒き散らす。粉末は、目がくらむような強烈な刺激臭を放ち、侵入者たちは苦し紛れにその場から退散せざるを得なかった。
「ふふ…、私を、ただの病弱な子供だと思ったら大間違いよ」
リリィの瞳は、商才を発揮するときと同じように、確固たる意志に満ちていた。
子供たちの力を合わせ、襲撃を撃退したセレスティーナは、安堵のため息をついた。
彼女は、子供たちが、もう「忌み子」ではないことを確信した。彼らは、自らの力で、大切なものを守ることができる、かけがえのない存在なのだ。
森の中から、その様子をすべて見ていたディランは、胸に熱いものがこみ上げるのを感じた。
王子の命令など、もはやどうでもよかった。
彼が守るべきは、王家でも、王都でもない。
この、愛と希望に満ちた孤児院なのだ。
ディランは、王子の命令に背き、セレスティーナと子供たちを守ることを、心に固く決意した。
登場人物紹介(第九話時点)
セレスティーナ・フォン・エトワール
侯爵令嬢。子供たちが自らの力で襲撃を撃退する姿を見て、彼らの成長と強さを確信する。
ルカ
魔力暴走を起こしていた少年。セレスティーナに教わった呼吸法を使い、防御魔法で仲間を守る。
リリィ
病弱だった少女。薬草の知識と商才を活かした知恵で、襲撃者を撃退する。
ハンス
暴力的だった少年。ディランから教わった剣術で、仲間を守るために戦う。
ディラン
王国騎士団に所属する騎士。子供たちの反撃とセレスティーナの愛を目の当たりにし、王子の命令に背いて彼女たちを守ることを決意する。