第八話:嵐の予兆と、訪れる影
エミリアは、ユリウスがセレスティーナに何か貴重なものを渡したという情報を手に入れた後、早速その情報を利用して卑劣な計画を実行に移した。彼女は、セレスティーナがレオナルドに送ったかのように見せかけた、偽造した手紙を作成した。
その手紙には、子供たちの才能を利用して力をつけ、王家への復讐を企んでいるという、嘘の計画が詳細に記されていた。
手紙を受け取ったレオナルドは、怒りに震え、疑念を確信に変えてしまった。
「…やはり、私の優しさを、愚かだと嘲笑っていたのだな!」
彼は、セレスティーナを権力争いから守ろうとした自身の行動が、彼女に復讐の機会を与えてしまったのだと信じ込んでしまった。
「騎士団長を呼び出せ! セレスティーナを捕らえるよう、命じる!」
エミリアの思惑通り、レオナルドはセレスティーナを捕らえるよう命令を下した。
同じ頃、大商人エルネストは、王都の貴族や商人の間で、孤児院の噂を意図的に広めていた。
「辺境の孤児院にいる『忌み子』たちが、とんでもない才能を持っているらしい」
「あの子供たちが育てた薬草は、王都のどの薬草よりも品質が良いそうだ」
「彼らは、この国の未来を担う逸材となるだろう」
エルネストは、セレスティーナと子供たちが、王都にとって有益な存在であることをアピールし、王都の貴族や商人たちの関心を引くことに成功した。彼の真の狙いは、子供たちの才能を王都に知らしめることで、王家が彼らに手出ししにくくすることだった。
レオナルドの命令を聞いたディランは、不信感を抱いた。
「…殿下は、セレスティーナ様を保護するために追放したはず。それがなぜ、今になって捕らえるなどと……」
ディランは、レオナルドの命令の裏に、エミリアの陰謀が潜んでいることを直感した。彼は、レオナルドの命令に背き、孤児院の様子を独自に監視することを決意する。
夜の帳が下りた頃、ディランは孤児院の森の中に身を潜めていた。すると、複数の人影が孤児院に近づいていくのが見えた。
彼らは、王都の暗部で活動する人間たちだった。彼らは音もなく孤児院の裏口に忍び寄る。
「…やはり、エミリアが差し向けた者たちか」
ディランは、彼らがセレスティーナと子供たちを襲うつもりだと確信した。彼は、剣に手をかけ、いつでも動けるように身構えた。
嵐の予兆が、静かに、そして確実に、孤児院に迫っていた。
登場人物紹介(第八話時点)
セレスティーナ・フォン・エトワール
侯爵令嬢。王都で広まる嘘の噂に、その身が危険に晒され始める。
ディラン
王国騎士団に所属する騎士。レオナルドの命令に不信感を抱き、孤児院の様子を独自に監視する。
レオナルド
第二王子。エミリアが偽造した手紙を信じ込み、セレスティーナを捕らえるよう命じる。
エミリア・フォン・グロース
セレスティーナを陥れるため、偽造した手紙をレオナルドに送りつけ、彼を扇動する。
エルネスト
大商人。王都にセレスティーナと子供たちの噂を広め、彼らの存在を王都にとって有益なものだとアピールする。