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第一話:追放された悪役令嬢、忌み子の孤児院へ

この物語は、冤罪で婚約破棄され、辺境の「忌み子の孤児院」に追放された侯爵令嬢、セレスティーナ・フォン・エトワールの物語です 。


前世の知識(管理栄養士、心理学) を武器に、虐げられた子供たちの心身を癒し、秘められた才能を開花させていく彼女の再起は、彼女を陥れた者たちの自滅を誘発する、新たな形の復讐劇となります 。


これは、愛と知識で真の権力と人望を獲得し、かけがえのない家族と幸せを見つける物語です 。


悪役令嬢、子育て、スローライフ、恋愛、そして復讐 。様々な要素が織りなす、セレスティーナの第二の人生を、どうぞ最後までお楽しみください。


 「セレスティーナ・フォン・エトワール! 貴様との婚約を破棄する!」


 王宮の謁見の間。神聖な空気に満ちた、厳かで荘厳なその場所で、わたくしは声高にそう告げられた。


 目の前に立つのは、わたくしの婚約者であった第二王子、レオナルド殿下。


 その隣には、純白のドレスに身を包んだ、可憐な少女エミリア・フォン・グロースが、悲劇のヒロインを気取ったかのような表情で寄り添っている。


 わたくしは、彼らが仕組んだ茶番劇を、ただ静かに見つめていた。

 この場所に来るまでの間、一体何度、この状況を想像したことだろう。


 不貞を働いた悪女として、王子の婚約者という座を奪われ、最終的には辺境へと追放される。

 まさしく、よくある物語の悪役令嬢そのものだ。


 しかし、わたくしが彼らに陥れられた罪は、単なる不貞などという可愛らしいものではなかった。


 「セレスティーナ! 貴様は、この王国の財政機密を漏洩しようとしていたという! もはや、王族の伴侶となる資格などない!」


 レオナルド殿下が口にしたのは、まさしく彼自身が最も恐れている罪だった。王国の財政機密の漏洩。それはすなわち、国家反逆罪に等しい。


 レオナルド殿下は、権力欲が強く、王位を巡る争いに常に身を置いていた。

 だからこそ、この罪をわたくしに着せることで、わたくしを権力争いから遠ざけようとしているのだろう。


 馬鹿な男ね。わたくしに、そんな回りくどいことをしなくても、いくらでも手段はあったでしょうに。


 「セレスティーナ様、申し訳ありません。ですが、殿下のおそばにいる私のためにも、どうかこの罪を受け入れてください」


 エミリアが、震える声で懇願する。その瞳には、一粒の涙さえ浮かんでいなかった。

 本当に、見事な演技力だ。


 彼女は、わたくしに嫉妬し、卑劣な手段でわたくしを陥れた張本人だ。そのことを知っているのは、わたくしと、そしてこの茶番を仕組んだ彼らだけ。


 わたくしは、彼らの望み通り、この罪を受け入れるしかなかった。

 抵抗したところで、どうせ無駄なことだ。

 この場にいる者たちは、皆、彼らの味方なのだから。


 追放を宣告されたわたくしは、王宮を後にし、用意された馬車に揺られ、辺境へと向かう。


 馬車の窓から見える景色は、わたくしが知る王都のそれとは全く違っていた。

 華やかで賑やかだった王都の街並みは、いつしか荒涼とした大地へと変わっていた。


 わたくしの第二の人生は、一体どこへ向かうのだろうか。

 前世の知識(管理栄養士、心理学)を活かせる場所なんて、きっとこの世界には存在しない。

 絶望に打ちひしがれながらも、わたくしは馬車に揺られ続けた。


 数日後、わたくしの馬車は、森の奥深くにある小さな村にたどり着いた。


 村の中心にあるのは、ボロボロで今にも崩れ落ちそうな、古びた建物。


 「セレスティーナ様、こちらが、お住まいとなる場所です」


 馬車の御者が、そう言って建物を示す。

 そこには、小さな木製の看板がかけられていた。

 『忌み子の孤児院』


 わたくしは、その看板を見て、思わず息をのんだ。

 忌み子。それは、魔力暴走を起こした子供や、栄養失調で病弱な子供、貴族に虐げられ、心に傷を負った子供たちのことだ。


 この孤児院は、そんな子供たちを収容する場所だった。

 わたくしは、追放された挙句、忌み子たちを育てることになったらしい。


 …馬鹿な男ね、わたくしにこんな仕打ちをするなんて。


 わたくしは馬車を降り、孤児院の扉を開けた。

 中に入ると、埃っぽい空気がわたくしの鼻をついた。


 床には、いくつかの藁が敷かれているだけ。

 そして、その藁の上に、何人かの子供たちが座っていた。


 「…誰かしら、このみすぼらしい子供は?」


 わたくしがそう呟くと、子供たちは怯えたように身を震わせ、わたくしから目をそらした。

 栄養失調で、ガリガリに痩せ細った体。

 泥まみれの服。


 その瞳には、希望の光など、ひとかけらも宿っていなかった。


 わたくしは、彼らの姿を見て、胸の奥から込み上げてくる感情を抑えきれなかった。


 前世、わたくしは管理栄養士として、たくさんの子供たちと向き合ってきた。

 栄養失調で苦しむ子供たちを、健康な体へと導くことが、わたくしの仕事だった。


 だからこそ、目の前の子供たちの姿を見て、放っておくことなどできなかった。


 わたくしは、彼らに、前世の知識を活かして、栄養のある食事を作ってあげたいと強く思った。


 「…今日から、わたくしは、この孤児院で暮らすことになったセレスティーナよ」


 わたくしは、子供たちにそう告げた。


 「この辺境の孤児院で、腐りゆく第二の人生を送ることになったわ」


 そう言って、わたくしは子供たちに微笑みかける。


 すると、一人の少女が、震える手でわたくしのスカートを掴んだ。

 その瞳には、わずかながらも、希望の光が宿っていた。


 わたくしは、この子供たちのために、生きる意味を見つけられるかもしれない。

 そう、確信した。



登場人物紹介(第一話時点)


セレスティーナ・フォン・エトワール

侯爵令嬢。冤罪で婚約破棄され、辺境の「忌み子の孤児院」に追放される。前世は管理栄養士で、その知識を活かし子供たちを救うことを決意する。


レオナルド

第二王子。権力欲が強く、王位を巡る争いに身を置いている。セレスティーナを陥れた張本人だが、内心では彼女を権力争いから「保護」しようとしていた。


エミリア・フォン・グロース

セレスティーナに嫉妬しており、卑劣な手段で彼女を陥れた。


子供たち

「忌み子」として虐げられ、心身ともに衰弱している。セレスティーナとの出会いが、彼らの人生を変えることになる。

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