壱ノ六
「火事だ! 火事だ!」
町の入り口では横李の住人たちが騒いでいた。
「火元は町外れの納屋からだ!」
「ガロのガキ共が、棲みついていたトコか!」
キッセは急いで納屋まで走った。
群がる野次馬たちをかき分け、納屋にたどり着くと、立ち上る黒い煙と火柱が見えた。
――納屋が燃えている。
ぼうぼうと燃えている納屋をキッセは、ただ、茫然と眺めることしかできなかった。
成獣たちが次々に桶に入った水をかけ消火しているが、炎は勢いよくパン! パン! と高い音を立て納屋を燃やし続けた。
炎の勢いが増してきて、ついに成獣たちは消火を諦め、燃え広がらないように、火災の周りに水を撒き始めた。納屋の周囲には、燃え移る物が無いからだ。
何年も住んでいた納屋が、あっという間に跡形もなく燃え尽きると、あんなにいた野次馬もいなくなり、残ったのは隅の方に避難していたガロの孤児たちだけだった。
「痛い…… 痛いよ……」
逃げ遅れて火傷を負い、泣き叫ぶ子や、助かったがどうしていいか分からず、その場でうずくまり、シクシクと啜り泣く声が虚しく聞こえた。
その片隅でキッセは、黒い塊と目が合った。
目だけがギョロっとこっちを見ている。一瞬、それが何なのか判らなかった。
近づいて見てみると、驚いて声にならなかった。
――それは真っ黒に焦げた孤児だった。
ただ、ひたすらキッセを見つめながら、ゆっくりと口を動かして、何かを話そうとしていた。
真っ黒に焼け焦げた皮膚は剥がれていて、辺りの燻ぶった臭いと、焼け焦げた肉の臭いが鼻に付く。
キッセは恐る恐る、焼け焦げた口元に耳を傾けた。
「……み、ず……の、みたい……」
聞きとれない程の微かな声が聞こえた。
その声を聞いて、キッセは自らの血の気が引いていくのがわかった。
(――こいつ、いつも私の横で寝るチビだ……)
名前は知らなかった。
最近、納屋に来た新入りのチビ助で、何故だかいつもキッセの後を付きまとっていた。
四六時中、追いかけ回られるのが嫌で、キッセはいつも撒いていたが、このチビ助は朝起きると必ずキッセの隣で寝ていた。
「わかった、待ってな!」
キッセは転がっていた水汲み桶を手に取ると、急いで井戸へ行った。
冷たい水をたっぷりと汲んで戻ると、チビ助の上半身を起き上がらせた。
痛々しい傷に触れているのに、チビ助は不思議と騒がなかった。
「あんた、名前は?」
「……ミッ、ケ……」
ミッケは、か細い声で答えた。
キッセは井戸で拾ってきた、欠けた茶碗で水をすくい、半開きのミッケの口にそっと茶碗をあてた。
「ゴク……ゴク……」と、喉を鳴らし、ミッケは美味そうに水を飲んだ。
「しっかりしな、ミッケ!」
ミッケは虚ろな目でキッセを見ると、小さく微笑み
「あり……が、とう……」と、言った。