表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼碧のつかい  作者: ひよよ
下ノ編
68/69

拾ノ七

 

 「お嬢様は清上華族せいじょうかぞくに憧れているのよ。この前、清上華族せいじょうかぞくを見かけたときリロックを従えて歩いていたから……」

 そう言ってエマリンは、食台の上のカゴにたっぷりと積み上がった蒸し立てのスッピ〈蒸しパン〉に手を伸ばした。

深窓しんそうの育ちに、羨望せんぼうのまなざしがほしいのね。――パピ、これ美味しいわ」

 スッピを頬張りながらのエマリンの褒め言葉に、料理頭のパピはニコリと笑いお茶を飲んだ。


「困ったもんだ。どう逆立ちしたって、清上華族せいじょうかぞくは無理だ」

 スッピ〈蒸しパン〉を片手に、男中のリべが言った。


「なんでだ? 旦那様は念願の華族かぞくになれたじゃないか」

 皆にリーノを注ぎながら下男げなんのカーチが訊くと「バカだなー、お前は」と、リベが笑った。


「バカなんて言うもんじゃないよ!」

 むっとしたカーチの代わりに上女中じょうじょちゅうのミットスが、リべにくぎを刺し、カーチがいれてくれたリーノメルをたっぷりと注いだ。

華族かぞくサマにも、序列があるんだよ。清上華族せいじょうかぞくっていうのは、元皇族もとこうぞくのことさ」


 お代わりの催促に茶杯チャハを差し出すリベに、カーチはそっぽを向いて、ミットスの隣の席に座り訊いた。

「もと、こうぞく? ――皇族って、帝様みかどさまと一緒にりゅうみや龍淵宮りょうえんきゅう〉に住んでいるじゃないの?」


 ミットスは乳茶メル・リーノを飲み一息つくと、隣に座るカーチに話した。


「お山に住めるのは、あおみかどとその直系のみ。その他はりゅうみやを出て、清上華族せいじょうかぞくって呼ばれるんだよ。そいで、その清上華族せいじょうかぞくを筆頭に、嘉煕かき雍煕ようき永煕えいき三名家さんめいかがあって、その下にこの御家おいえって順になるのよ」


 ミットスはふんわりとしたスッピ〈蒸しパン〉を手に取り、一口食べると笑みがこぼれた。

「――あら、本当、おいしいわ。パピ」


 その言葉に微笑むパピの隣で、しぶしぶ自分でリーノを注ぎながらリベが言った。


「もう少し詳しくいうと、その三名家さんめいかと、この家の間にはたくさんのお偉いさんを挟むけどな。――大体、リロックの侍女なんて清上華族せいじょうかぞく皇族こうぞくぐらいで、どうやったて無理さ。無い物を欲しがる嬢ちゃんだ」


「嬢ちゃんとは誰の事です!」


 その声に驚いて、リベは思わずその場を立ち上がった。

 恐る恐る振り返るとそこにはクーリツが立っていた。ぐっと睨みをきかせるクーリツを目の前に、リベの顔は青ざめ、しどろもどろになりながら、手に持っていた蒸しパンを床に落とした。


「リベ! ここで長く働きたいのなら、口の聞き方に気をつけなさい!」

 女中長じょちゅうちょうのクーリツの眉間のしわが深く寄る。


「カーチ! 昼間、頼んでいたものは? ミットス、奥方様がお呼びよ」

 クーリツはパンパンと両手を叩き

「いつまで、のんびりと休憩を取っているの! 早く持ち場に戻りなさい」

 クーリツの叱咤が半地下に響き渡る。


 皆、急いでリーノを飲み干すと、座っていた椅子を片付け、散っていく。


「全く……。リベが余計な事を言うから、休憩時間がなくなっちゃったじゃないの」

 エマリンは食べかけのスッピ〈蒸しパン〉を口に入れた。


「さっきの話、リロックでも何でも、新しい女中が来てくれたら、エマリンだってずいぶん楽になるだろ」


 キッセが訊くと、リーノでスッピを流し込んだエマリンは眉を上げ

「まあね。そうなってくれてら、ありがたいけど……。そうなったら、そうなったでお役ごめんになるわね」

 

 互いクスクスと笑うと、キッセとエマリンは各自の持ち場に戻った。


 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ