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蒼碧のつかい  作者: ひよよ
下ノ編
66/69

拾ノ五


 ♢♢♢


「お二人だと少し狭いですがよろしいですか」

 案内してくれた女中が言った。


「大丈夫。ありがとう」

 優しく微笑みながら、トルファが涼しげな瞳で女中をみつめると、女中が顔をぽっと赤らめたのがわかった。

 ゴホンと、ミトが咳払いをすると、ハッと女中は我にかえり

「ひ、必要なものがあったら、おっしゃってください。すぐにご用意したしますので」

 声を裏がえながら慌てて部屋を出た。


 そんなことをよそに、トルファはすごいなと、ふかふかな寝台しんだいにごろんと寝そべった。


「この部屋で狭いなんて、つい先週までは馬小屋の生活だったのにな。ミト」

「――トルファ」

「わかっているよ。私情と仕事は分けているだろ」


 悪びれた様子もなく、寝そべりながらトルファは言うが、周りがそうはいかない。

 リロックに生まれ、美しく育った青年は今年で十八だ。ついこの前までミトより小さい子どもだったが、今ではミトの背丈を飛び越え、ミトようにがっしりした体つきとは正反対のすらっとしたその物腰に、座っているだけで若い蝶がフラフラと吸い寄せられてしまう。

 気をつけろと言いたいところだか、生まれもった外見をどうにかしろと言ったとて、どうにもならない。

 ミトは半ば呆れながら窓辺へと近寄った。


 ミトたちが案内された部屋は、寧照ねいしょう悠婉ゆうえん保僚ほりょうのこどもたちが使用している階の一番端の部屋だ。

 基本的には外出時の警護だが、できるだけ三人の子どもたちの傍にいてくれと策達さくたつの願いだった。


 女中は狭いと言っていたが、案内された部屋は、トルファが言ったとおり十分すぎる広さだ。

 装飾品などは特にないが立派な花瓶に生けてある花と、分厚い装丁の本が並ぶ本棚に清潔な寝台が二つ、それと大きな窓があった。

 ミトは日がたっぷりと入る大きな窓を開くと、気持ちの良い風が部屋へと流れ込んだ。


「いい、季節だ」

 外を覗くと手入れが行きとどいた庭に、美しい花が咲き乱れ、端の方で手入れをしている庭師が見えた。

 遠くに淡い青碧あおみどり色の山脈といわれている碧巌竜脈へきがんりゅうみゃくが見える。珍しく山頂に雲がなく、うっすらと白い稜線が見えた。

 部屋の場所によっては形のよい山の山頂にある、広大な森に囲まれた龍淵宮りょうえんきゅうが見えるだろうとミトは思った。今の季節は萌える息吹いぶき萌黄もえぎ色の木々が美しいはずだ。


「……十年か」

 ミトはしばらくの間、黙って何かにふけるように遠くをみつめていた。



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