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蒼碧のつかい  作者: ひよよ
下ノ編
63/65

拾ノニ


「考えるなって言われたって……」

 ポツンと一人で部屋にいると傷のせいか、いつもは感じないがなんだか心細くなる。手当の時に痛み止めの薬湯やくとうを飲んだが、傷の痛みが強く感じる。

 傷の痛みと心もとない気持ちでいると、トントンと扉の叩く音がした。


「キッセ…… 入っても平気かい?」寧照ねいしょうの声だ。

 キッセは慌てて身だしなみを直し、大きく一呼吸してから「はい。どうぞ」と答えた。


 ゆっくりと扉が開くと、寧照ねいしょうは片手に支え杖をし、もう片手には桃色の薔薇ラーレの花束を抱えていた。

 キッセが寝台から降りようとすると「そのままで」と言い、寧照はキッセの部屋に入った。


「クーリツさんからキッセが目覚めたと聞いてね。怪我の痛みはどうだい?」

「少し痛みますが、大丈夫です。それより若様の足のお怪我は?」

「私のほうは大したことはないよ」

 寧照ねいしょうは近くにあった椅子に腰を掛けた。


「キッセが助けてくれたおかげで大事には至らなかった。本当にありがとう」

 いつもと変わらない笑顔で寧照ねいしょうはキッセに礼を言ったが、顔色が青白くまだ万全ではないのは見てとれた。


「あの時、私が君を助けるべきなのに、何もできなくて……。本当にすまなかった」


 いきなり寧照ねいしょうに謝罪され、キッセは慌てた。

「謝らないでください。若様。私はこの通り元気です。だから謝るのはおやめください」

 キッセに言われ、寧照の顔が心まし和らいだ。


「今さっき、ネシャに摘んでもらった。あとでエマリンに生けてもらうといい」

 寧照ねいしょうは抱えていた桃色の薔薇ラーレの花束をキッセに渡した。桃色の薔薇ラーレから甘い香りが漂う。


 花束を受け取ったキッセの手を寧照はそっと握った。

「キッセ、君は私の命の恩人だ。本当にありがとう」

 いきなり寧照ねいしょうに手を握られて驚いたキッセは、思わず目をそらし下を向いた。顔が赤らめるのが恥ずかしく寧照ねいしょうのほうを見れない。


「怪我が完治するまで、当分の間は、気にせずゆっくりと休んでくれ」

 そう言って寧照は立ち上がると部屋を後にした。



 少ししてからエマリンが盆を抱えてやってきた。

 部屋いっぱいに漂う薔薇ラーレの香りがエマリンの鼻をかすめた。


「わあ、綺麗な薔薇ラーレ。誰が持ってきてくれたの?」

「……若様が持ってきてくれた」

「へえー、若様がね」


 キッセは何もごともなかったかのように平然と答えたつもりだが、エマリンはどことなくよそよそしいキッセの姿が可愛く見え、思わずニヤニヤしてしまった。


「素敵な薔薇ラーレね。桃色の薔薇ラーレの花言葉は感謝よ。後で花瓶に生けといてあげる」

 エマリンがさりげなく教えてくれた花言葉の意味にキッセは恥ずかしくなり、毛布で顔を隠したいのをぐっとこらえた。

 

「傷の痛みはどう?」

 エマリンは持ってきた盆を机の上に置いた。

「痛いよ……」

「そりゃ、そうね。でも傷の治りは良好だってお医者さまが言っていたわ。——あとは食事を食べて、たくさん寝て早くよくならないと」

 そう言ってエマリンは運んできた小さな陶器鍋の蓋を開けた。

「パピが心配して、作ってくれたのよ」

 いい匂いがする。エマリンはキッセが好きなトパがゆを持ってきてくれたのだ。

 シトパ〈固いパン〉を、トト馬のメルで煮込んだトパ粥を、エマリンは器によそうと、そこにたっぷりの蜂蜜ルノをかけてくれた。


「こんなにたくさんの蜂蜜ルノを……。パピは怒られないかい?」

「いらぬ心配は無用よ。とにかくあなたは体のことを一番に考えればいいの」




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