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蒼碧のつかい  作者: ひよよ
下ノ編
62/65

拾ノ章 用心棒と御付女中

 

 靑の都は江汐こうしほと同じく彲川ちせんという川を挟んで、西側に皇族と華族、東側に靑都せいと蒼生そうせいが暮らしている。キッセがいるこの華族地区は、東に彲川ちせん、西に碧巌竜脈へきがんりゅうみゃく、南は帝都・靑の都をぐるりと囲む城壁、虹泉城壁こうせんじょうへきに囲まれていた。

 

 彲川ちせん蒼龍そうりゅうが住まわれる、湖上こじょうみやから流れ落ちる聖なる川のため、あおみかどのみしか触れることが許されない神聖なる川だ。そのため彲川ちせんは泳ぐことはもちろん、船なども一隻も浮かんでいない。

 滄河さうがのように川幅が広くなく、華族地区と市井しせいを二分する彲川ちせんの通行手段は四本の橋のみだった。


 川上の隴淵宮りょうえんきゅうに一番近い橋、渡龍橋とりゅうきょうは、靑の帝と皇太子のみが渡ることのできる橋だ。屋根付きの橋に立派な門。その禁門きんもんは常時閉ざされており、市井しせい側の門外には、武衛官ぶえいかん守衛所しゅえいじょがあった。

 屈強な晨門しんもん〈門番〉が昼夜、通日いるため安易に近づく事すらできない。


 二本目の橋、一ツ橋〈ひとつばし〉は靑の帝と皇太子以外の皇族と清上華族せいじょうかぞく、そして門籍もんせきに名ある一部の官人が渡ることができる橋だ。

 その他の華族は三本目の橋、二ツ橋〈ふたつばし〉を渡る。

 四つ目の橋、三ツ橋〈みつばし〉は、華族御用聞きの商人や、キッセたち使用人が渡る橋になっていた。

 四本すべての橋は馬車が行き交うよう幅が広く造られていた。

 キッセのような使用人や商人が、三ツ橋を渡るときは華族の各家が発行した通行木札つうこうきふだが無ければは、橋を行き来することは不可能だった。

 一ツ橋、二ツ橋、三ツ橋の三つの橋にも橋門きょうもんがあり、華族地区の警備を司る警衛士けいえじ守衛所しゅえいじょが橋の端々に設けてあり、夜になると橋門きょうもんは閉ざされる。

 そう簡単に侵入できない華族地区に、あの覆面三人は堂々と入り込んで、キッセたちを襲ったのだ。

 


「好かった、気がついて……」

 エマリンの声がするが、目が霞んでよく見えなかった。だけどエマリンの声と匂いにキッセは安心した。

 キッセがこめかみを押さえていると、エマリンはそばに置いてあった水桶みずおけの水に布を濡らし、固く絞ってからキッセの手の上にのせた。


「ありがとう……」

 キッセは受け取った布を目の上にあてた。湿った布はひんやりとして心地よい。少しずつだが、ぼんやりとエマリンの顔が見えてきた。虚な目で辺りを見渡すとキッセは自室の寝台の上に寝ていた。


「……若様は?」

 キッセは起き上がろうとしたが、くらっと目眩がする。

「若様は大丈夫だから安心して」

 エマリンはキッセの体を支えながら上体を起こすと、キッセの背中に枕をあててくれた。背中の枕のおかけで、体が安定し目眩が徐々に収まっていく。


「若様よりキッセ、あなたの方が重症なのよ……」

 エマリンは茶杯チャハに水を注いでキッセに渡した。

 キッセが受け取り、ゆっくりと水を飲むを姿を見るとエマリンは安堵の顔をした。


「あなた丸三日も寝ていたのよ。今、クーリツさんを呼びに行ってくるから、大人しくそこにいなさい」

 そう言ってエマリンは部屋を出た。


 しばらくしてクーリツとエマリンが医師と一緒に現れた。いつも厳しいクーリツもキッセの顔を見るなりエマリンと同様に安堵を見せた。

 キッセはクーリツに襲われた後のことを詳しく訊こうとしたが、クーリツはいつもの顔に戻り

「今は手当に専念しなさい」

 一言言って、エマリンに医師の手伝いをするようにと指示をした。


 キッセの左肩のキズはかなり深かったが、運がよかったのか太い血管をさけて斬られたのが幸いした。

 包帯を解き、キッセの傷口を診た医師は驚いた。

「もう、傷口がくっつき始めておるわ……」


 痛みをこらえながらの手当が終わったので、キッセはクーリツに詳しい話を聞きたかったが、クーリツはこれといって事件の話はしなかった。


「あの晩のことはすべて旦那様が解決済みです。だから、あなたは余計なことを考えず、傷が良くなるまでしばらく安静していなさい」

 そう言って、片づけをし終わったエマリンと医師とともに部屋を出た。

 




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