玖ノ六
お茶会と称して呼ばれたが、なんやかんやで商談が長引き、すっかり夜が更けてしまった。
待機していた寧照の馬車の車輪が破損しまったため、白銅家が用意してくれた馬車に乗って屋敷へ向かう途中、順調に走っていた馬車が急に停車した。
「どうしたのだ……」
寧照の問いにロクマンが、すぐさま馭者側の壁を叩いた。
「何があった?」と、ロクマンが訊くが返事が返ってこない。
ロクマンが小さな覗き窓から馭者の様子を見てみるが、馭者姿が見当たらず、夜道を照らす洋灯だけがゆらゆらと揺れている。
不審に思ったロクマンは、「外の様子を見てきます」と、扉の取っ手に手を掛けると同時。ロクマンは腕を引っ張られて外へと放りだされた。
その刹那、キッセも覆面をした奴に腕をつかまれ、外へと引きずり出された。
――突然の襲撃
ロクマンとキッセが外へ引きずりだされた後、間髪入れずに覆面をした男が寧照を狙い襲ってきた。
寧照は狭い車内で抵抗した。その時、車内にあった洋灯が、襲ってきた男の体に当たり、中身の油が襲ってきた男にかかり、男の衣がみるみる燃え出した。
驚いた男は馬車を飛び出し、続いて寧照も飛び出した。
「寧照様! 寧照様! お逃げください!」
暗闇の中ロクマンは男と応戦しながら大声で叫んでいる。
キッセを取り押さえていた男が、仲間の一人がみるみる火だるまになるのに動揺したのか、キッセをつかんでいた力が一瞬緩まった。
キッセはその隙を逃さず、男の足を思いっきり踏みつけ、体制を崩した男につかさず、脇腹にめがけて、想いっきり肘手鉄を食らわした。
「若様!」
覆面から離れたキッセは寧照に駆け寄った。寧照は争った時に足を怪我したのか、血がでている。
さっきまで乗っていた馬車にも引火し勢いよく燃え出すと、その炎に馬が興奮し、暴れ鳴きはじめた。
キッセは炎に照らされた辺りを見渡した。
敵は三人、火だるまとロクマンの相手、そしてキッセと寧照の目の前の男だ。三人共、覆面で顔は分からない。
「くそガキが!」
キッセにやられた男は腰にぶら下げていた刀を鞘から外すと、キッセを目掛けて襲ってきた。
キッセはとっさに寧照を突き飛ばした。
――斬られる! と、思ったその時、キッセの右手に木の棒が触れた。棒と刀とでは到底勝ち目がない、だがキッセはその棒をつかみ、何も考えず無我夢中で覆面目掛けて飛びかかった。
「キッセーー!」
寧照の叫びと同時にキッセの振りかざした棒が男の顔におもいっきり当たり、覆面が振りかざした刃がキッセの左肩をかすった。キッセは地面に倒れ込んだ。
「クソ、かすったか!」覆面が吐き捨てるように言った。
キッセは手で肩を押さえた。左肩は焼けつくような痛みと血があふれいる。痛みに耐えながら起き上がると、覆面は襲ったキッセなど目もくれず寧照を見ている。
(狙いは若様か!)
覆面が刀を振り上げて寧照のところへ歩みよる。キッセは左肩を抑えながら寧照の元へ行こうとした時
――ピィーーーーーーー!!!
けたたましい笛の音が、あちらこちらから聞こえてきた。騒ぎを聞きつけた警衛士が駆け付けてきたのだ。
遠くてロクマンは倒れている。
続々と現れる警衛士に、ロクマンを襲った覆面は火傷を負った覆面をかかえた。
「おい、行くぞ!」
キッセを襲った覆面はチッと舌打ちすると、仲間とともに闇に溶け込むようにその場から去って行った。
覆面がいなくなると、緊張の糸が切れたのか、キッセはその場で気を失った。




