玖ノ三
キッセは裏口から庭へと回り、庭師のネシャを探した。
ガロのネシャは、お嬢様一行の目に触れないように、庭の隅で新しい花を植えるための植床を整えていた。
キッセはネシャに手土産の薔薇を頼むと
「丁度、今朝咲いたばかりのいいヤツがあるよ」と、嬉しそうにキッセから籠を受け取った。
その足でキッセは庭にいるロクマンをさがした。
広い庭園の中、ロクマンは悠婉と数人の学友に囲まれ、庭を案内していた。
無理なのはわかっているが、なるべく気配を消して、遠くけらそっとロクマンを呼んだ。
キッセに気づいたロクマンは、お嬢様方に一礼すると、キッセの近くに来ると
「どうした? 何かあったのか」と訊いてきた。
キッセはロクマンの耳元でことずけ話しながら、ちらっと悠婉を見た。案の定、お嬢様はご学友の手前、ごく自然に装っていたが、キッセには顔が引きつっているのがわかった。
(――そこまでガロを毛嫌いするなよ)
思いっきり舌を出してやりたいが、心の中だけにした。
キッセから話しを聞いたロクマンは、お嬢様一行に別れの挨拶し、すぐさま寧照の元へと戻った。
キッセもいったん部屋に戻り、身支度を整えてから寧照の元へ向かった。
♢♢♢
屋敷の表玄関には、馬車が待機していた。
キッセはエマリンが贈り物として綺麗に整えた手土産を受け取り、寧照、ロクマンの後につづき馬車へと乗り込んだ。
華族地区ではトト馬ではなく馬で移動する。使用人に見送られ、キッセたちを乗せた馬車は出発した。
「私が誰と会うのかを察するとは、さすがクーリツさんだ」
キッセが抱えていた籠を見た寧照が感心すると、寧照の隣に座っているロクマンがつかさずうなずいた。
「白色の薔薇とパピの手製がお好きな御方は、白銅家の奥方さまです。愛妻家で御有名な白銅様はきっとお喜びになられます」
白銅家は上位華族だ。当主ではない寧照それも地下華族など茶会に招き入れることはそうそうない。その白銅家からお呼びがかかった理由はただ一つ、金を借りたいのだ。
寧照を呼びつけるのは金の相談だと華族地区の誰もが知っている。知っているが誰もが口には出さない。
あくまでも、本日は奥方さまが開いたお茶会に寧照が招待されたという、表の名目が重要だ。
(華族ってものほど、外目を気にする者はいないな……)
心得ている寧照は堅苦しい手土産ではなく、白銅家の奥方が好きな薔薇とパピの手製を選んだ。




