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蒼碧のつかい  作者: ひよよ
下ノ編
58/65

玖ノ三

 

 キッセは裏口から庭へと回り、庭師のネシャを探した。

 ガロのネシャは、お嬢様一行の目に触れないように、庭の隅で新しい花を植えるための植床うえどこを整えていた。

 キッセはネシャに手土産の薔薇ラーレを頼むと

「丁度、今朝咲いたばかりのいいヤツがあるよ」と、嬉しそうにキッセから籠を受け取った。


 その足でキッセは庭にいるロクマンをさがした。

 広い庭園の中、ロクマンは悠婉ゆうえんと数人の学友がくゆうに囲まれ、庭を案内していた。

 無理なのはわかっているが、なるべく気配を消して、遠くけらそっとロクマンを呼んだ。

 キッセに気づいたロクマンは、お嬢様方に一礼すると、キッセの近くに来ると

「どうした? 何かあったのか」と訊いてきた。


 キッセはロクマンの耳元でことずけ話しながら、ちらっと悠婉ゆうえんを見た。案の定、お嬢様はご学友の手前、ごく自然に装っていたが、キッセには顔が引きつっているのがわかった。

(――そこまでガロを毛嫌いするなよ)

 思いっきり舌を出してやりたいが、心の中だけにした。


 キッセから話しを聞いたロクマンは、お嬢様一行に別れの挨拶し、すぐさま寧照ねいしょうの元へと戻った。

 キッセもいったん部屋に戻り、身支度を整えてから寧照ねいしょうの元へ向かった。



♢♢♢



 屋敷の表玄関には、馬車が待機していた。

 キッセはエマリンが贈り物として綺麗に整えた手土産を受け取り、寧照ねいしょう、ロクマンの後につづき馬車へと乗り込んだ。

 華族かぞく地区ではトトうまではなく馬で移動する。使用人に見送られ、キッセたちを乗せた馬車は出発した。


「私が誰と会うのかを察するとは、さすがクーリツさんだ」

 キッセが抱えていた籠を見た寧照ねいしょうが感心すると、寧照ねいしょうの隣に座っているロクマンがつかさずうなずいた。

白色はくしょく薔薇ラーレとパピの手製がお好きな御方おかたは、白銅はくどう家の奥方さまです。愛妻家で御有名な白銅様はきっとお喜びになられます」 


 白銅はくどう家は上位じょうい華族だ。当主ではない寧照ねいしょうそれも地下じげ華族など茶会に招き入れることはそうそうない。その白銅家からお呼びがかかった理由はただ一つ、金を借りたいのだ。

 寧照ねいしょうを呼びつけるのは金の相談だと華族地区このちくの誰もが知っている。知っているが誰もが口には出さない。

 あくまでも、本日は奥方さまが開いたお茶会に寧照ねいしょうが招待されたという、表の名目が重要だ。

(華族ってものほど、外目を気にする者はいないな……)

 心得ている寧照ねいしょうは堅苦しい手土産ではなく、白銅はくどう家の奥方が好きな薔薇ラーレとパピの手製を選んだ。 


 

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