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蒼碧のつかい  作者: ひよよ
下ノ編
57/65

玖ノニ

 

 クーリツは厨房の奥で、茶器一式の準備をしていたキッセを呼んだ。


リーノはエマリンに運ばせて、あなたはロクマンと若様の所へ」

「ロクマンさんはどちらに?」

「お嬢様方とお庭にいます」

 キッセの顔が一瞬曇った。


 キッセの表情が曇ったのは、この屋敷のお嬢様、悠婉ゆうえんはガロが好きではなかったからだ。学友の前にキッセが現れたら、機嫌を損ねるであろう。

 悠婉ゆうえんは決して文句は言わない――いや、言えないのはわかっているが、悠婉ゆうえんの前に行くのは気が引ける。

 それを察したのかクーリツは眉一つ動かさず

「旦那様から何も言われていませんから気にしないように。それと、ネシャに今朝咲いた、白色の薔薇ラーレの花をみつくろうようにと」キッセに言った。


(ロクマンにキッセと、忙しいっていうのに……)

 クーリツは心の中で小言を言うと、気を取り直し指示をし始めた。


 キッセはクーリツに言われたとおり、エマリンに茶器の乗った盆を託した。

 階段を上がり上の部屋へ向かう途中、降りてきた上女中のミットスが、あっと声を上げた。

「キッセ! 上の階に行くなら、若様に奥方さまが呼んでいるって伝えてくれるかい?」

「分かったよ」

 キッセも気を取り直すと、いきよいよく階段を駆け上がって行った。



 この屋敷の当主、策達さくたつ。その策達さくたつには亡き妻との間に寧照ねいしょう保僚ほりょうの二人の息子おり、再嫁さいか咲萄しょうとうには亡き夫との間に悠婉ゆうえんの一人娘がいた。

 悠婉ゆうえんのガロ嫌いは異常だ。母親が再縁する前までは、屋敷内の使用人にガロを使うことをけして許さなかった。ガロが少しでも自分の視界に触れたら時の怒りようは、それはもう大変だったとエマリンが言っていた。

 そんなガロ嫌いの悠婉ゆうえんだが今は毛嫌いすることを許されなかった。

 当主の策達さくたつはカロック。咲萄しょうとう悠婉ゆうえん寧照ねいしょうはリロックだが、策達さくたつの末息子の保僚ほりょうがガロだからだ。

 いくら策達さくたつが妻、咲萄しょうとうの言うことをなんでも聞くとは言っても、末息子のガロを部屋に閉じ込めるようなことは決してしない。

 悠婉ゆうえんも母にきつく注意されているのであろう、母の再縁から悠婉ゆうえんはガロに対して声を出して怒ることは一度もなった。

 ただガロを見る時のあの目つきがキッセは嫌いだった。 



若様わかさま、若様……」

 呼びかけられ、振り向くとキッセがいた。

 もう、一年近くたつのに寧照ねいしょうは若様という名称になかなか慣れない。


「若様、クーリツさんから聞きました。今、ロクマンさんを呼びに行くところです。それと奥方おくがたさまが若様をお呼びでございます」

「ああ、わかった……」

 寧照ねいしょうが苦笑した。

「……その若様わかさまって呼び方にはなかなか慣れないな」

 キッセもそう思ってはいるが、口には出さない。一年前までは若旦那わかだんなと呼んでいた寧照ねいしょうは、慣れない生活なのか、この屋敷に住み始めて少しやせたように見える。


清上華族せいじょうかぞくや、三名家さんめいかでもないのにな……」

 寧照ねいしょうが言いたいのもわかる。いくら華族かぞくになったとはいえ、上には上がいる。この家は上位じょうい華族のように龍淵宮りょうえんきゅう昇殿しょうでんはできない、名だけの地下じげ華族なのだ。


「それよりキッセ、おとっさんを見なかったかい?」

 キッセは軽く惑うようなに寧照ねいしょうを見ると、寧照ねいしょうもう一度深いため息をついた。

「――父様ととさま母様かかさまか…… 全く、この華族というのは……」

 そう言ってキッセから策達さくたつの居場所を訊くと、寧照ねいしょうはその場を後にした。




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