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蒼碧のつかい  作者: ひよよ
下ノ編
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玖ノ章 帝都・靑の都

 

 水明すいめい蒼国そうこくの都――帝都ていとあおみやこ


 港町みなとまち江汐こうしほに流れる蒼国の大河、滄河さうがを北上した所にある、この国の都。

 北は深い山々、西側一帯は天高くそびえたつ碧巌竜脈へきがんりゅうみゃく、東側から南側はぐるりと湾曲わんきょく状の虹泉城壁こうせんじょうへき城壁じょうへきによって守られている城市じょうしの都。

 その靑都せいとの北西側にある、ぽこぽこと大小の山が連なる中、一つだけ高く大きな岩山が見える。その山の頂から、はかり知れない水量を誇る一本の瀧が流れ落ちていた。 

 水螭みずちたきと呼ばれる、あふれるばかりの力強い水源の源こそ、この国に恩恵をもたらす蒼龍そうりゅうの力と言われていた。

 の昔、この岩山の山頂にあお龍神りゅうしんが降り立ち、湖上こじょうみやを築いた。その幻のみや湖上こじょうみやには、この国の守護神・蒼龍そうりゅうが住まわれていると言い伝えられている。

 その水螭みずちたきから南西の少し離れた所に、こんもりとした形の良い山がある。臍山ほそざんと呼ばれる山の山頂に、蒼龍そうりゅうからたまわわりし、この国を治めるあおみかどが住まわれる隴淵宮りょうえんきゅうがあった。



 キッセは風が心地よく通りすぎる大きな窓から、遠く小さく霞む龍淵宮りょうえんきゅうを見ていた。


「キッセ、そっち引っ張ってよ!」

「ああ、ごめん……」

 キッセはエマリンと一緒に、真っ白に洗われた敷布しきふをシワ一つなく寝台しんだいに敷いていた。


「お嬢さまには困り果てるわ。いきなりご友学をお連れになられて……。お連れになるだけならまだしも、お泊りになられるし……それに」

「それぐらいにしときな、エマリン。誰に聞かれているか、わかりゃしないよ」

 キッセは方眉をあげた。

「……そうね」

 キッセに言われエマリンは大きなため息をした。


 女学宮じょがっきゅうから同学級の女学子じょがくし数人を連れ、帰校したこの屋敷の一人娘、悠婉ゆうえんの思いつきで、キッセたちは予定外の準備に追われていた。

 先ほど、屋敷の料理頭りょうりがしらパピがこしらえた菓子が気に入らないと言うので、下男が走って買い出しに行く姿を見かけた。

 なんやら流行りの焼き菓子屋が、川の向こうにあるらしく、そのお菓子でお茶会を開きたいとの事とお嬢様のお頼みらしい。

 言う方は簡単だが、言われた方はてんてこ舞いだ。

 そんなこと一切お構いなしの、当家の一人娘、悠婉ゆうえんお嬢様御一行は只今、御自慢のお庭の散策をしていた。



 キッセとエマリンが部屋の支度を終え、下へ降りると半地下の厨房と配膳室では、使用人たちが急な来客のため大忙しだった。 


「おいおい、買い出しの菓子はまだか?」

「お嬢様方には、銀木犀ぎんもくせい花茶フォーノお出しして―― もう! その茶器じゃだめよ」

「ご夕食のお献立、どういたしましょう?」

「キッセ、どこ行ってたのよ! 早くこっちを手伝って!」

 やれやれとキッセとエマリンはお互い目を合わし、この予定外の仕事に取り掛かった。


「――クーリツさん」 


 その声に一同、動きを止め、声の主に振り向き一礼をした。

「皆、そのまま働いてくれ」

 長身のリロックの青年の一言で、使用人たちは各々業務に戻った。


若様わかさま、なぜこのようなところに……」

 呼ばれた女中長じょちゅうちょうのクーリツが、屋敷の当主の長子ちょうし寧照ねいしょうに言った。

「忙しい所すまない。先ほど私の所に使いが来て、出かけることになった。手土産の用意をお願いしたい。――それと……」

 寧照ねいしょうは辺りを見渡しながら

「キッセを少し借りたい」

(やれやれ、猫の手も借りたいって時に……)

 クーリツはそう思いながらも顔には微塵みじんも出ない。


「かしこまりました。――ですが若様。わざわざこちらにお越しならなくても、そのような御用時は、ロクマンにお申しつけください」

 忙しい中でも、眉一つ動かさないクーリツに、寧照ねいしょうは苦笑しながら、

「ロクマンは悠婉ゆうえんにとられてしまってね……」

 ロクマンは寧照ねいしょう御付男中おつきだんじゅうなのだが、植物に詳しいので、先ほど庭の案内へと連れていかれたのだ。


「手土産に薔薇ラーレとモレン蜜水みつすい。それと果実の蜜煮みつにを幾つか入れといくれないか? 先方はパピのお手製がお気に入りでね」

 背中越しで聞いていた料理頭のパピの背中が喜んで見えた。

 寧照ねいしょうはクーリツに宜しくと頼むと、上へと上がって行った。




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