捌ノ五
宙定が薬の入った小瓶の蓋を開け、少女の鼻に近づけた。何度か薬を嗅がすと、少しずつ少女の意識が戻り始めた。
朦朧としている少女を宙定はそっと起こし、水が入った器を渡すと、少女は黙ってそれを受け取り、ゆっくりと水を飲み始めた。
以外にも、少女は知らない場所にいるにも関わらずに、焦るようすもなく落ち着いている。
「名前は?」
宙定が優しく訊くと、少女は怪訝な顔した。
「馬鹿ね!言葉が通じないのよ!」
横で見ていたアケームが口をとんがらせた。
「ナロァー(名前)」と宙定がもう一度訊くと、少女は「レィイラ」と言った。
「発音が難しいね。レイラいいのかな」
宙定の問いに、少女は首を横に振って何かを言った後、また「レィイラ」と言った。
「すまない、黒黯国の言葉は少しの単語しかしらないんだ」
それにこの子は訛りなのか少し聞きにくい。
「大体、言葉もろくに話せないのに、華族の御付なんか勤まるわけないでしょ!」
「特に言葉の指定はなかったんだ。お金持ちの気持ちは僕にはわからないし、妓楼に売るのは可愛そうだよ……」
そんな宙定に、ケッ!とアケームは口をひん曲げた。
「あんたね! この前リロックの女を普通に妓楼に売り飛ばしたくせに!」
宙定とは長い付き合いだが、相変わらず何を考えているか読めないヤツだ。
「賈怨な商売はお互い様だよ。それに僕のはまだ真っ当な商売だよ。まっとうな顔して取り締まりをしながら、裏では売り飛ばしている役人たちの方がよっぽど悪党だよ」
同じムジナだろうと、アケームは思ったが言うのをやめ、琥珀色の酒を飲み干した。
「宙定、あんた。なぜこんな商売やってるのよ?」
「さあ、なんでだろう? 僕にもわからないや……」
宙定は不思議そうにアケームを見た。
――本当にふざけたヤローだ。
宙定は、震えている少女の肩に近くにあった布をかけた。
「いいかい。君はどういう理由ここに来たか知らないが、生きなくてはいけないよ。それと……」
宙定は少女の肩を指し
「ここではそれを誰にも見せてはいけないよ。わかったね」
宙定の言った意味が伝わったのかは定かではないが、少女はむき出しの肩をそっと隠した。




