捌ノ三
蒼国と朱明国の両国の間には、天高くそびえたつ碧巌竜脈がある。その碧巌竜脈から続く竜尾半島に両国の海域が隔たれていた。
唯一の移動手段は青海からの海路のみだ。その海路も昔は海流が複雑に渦巻いていて、両国の海路を渡ることは容易ではなかった。
それが二十年前頃から不思議と海流が落ち着いている所が、ところどころ現れ、潮目をうまく読めれば海路で渡る事ができはじめた。
そしてここ十年、蒼国側の海流がすっかり落ちつき、それと同時に内乱の続きの朱明国からの亡命者が増えるようになった。それに伴い誘拐、密猟、密輸なども盛んになってき、とうとう腰の重い蒼国の役人も取り締まりを強化し始めていたのだ。
「もう少し大人だったら、文句なしに売り飛ばすのですが……。最近はいろいろとうるさくてね。カロックならともかく、この幼さだと、妓楼が買ってくれるかどうか……。――うちも商売あがったりですよ……」
肥えた男は大げさに大きくため息をついた。
「お前の事なんてどうでもいい! 売れないなら他をあたるぞ!」
でっぷりの小言に男が怒りが抑えきれなくなってきた。
「おぉ! めっそうもございません。今お値段を……」
肥えた男が目をギョロギョロさせながら、太い指で珠盤をはじき、男たちに見せた。
「どういうことだ! 聞いていたより少ないぞ!」
提示された金額を見て声をあらがいだ。
「先ほどから言っておりますが、妓楼が一番の高値で購入してくれます。その他ですと、お値段の方がその…… それに、この娘の体には墨が彫られています。この国では墨のはいったリロックはあまりこのまれません」
「こんな小さい墨なんて、焼き潰しまえばいい!」
男の一人が大声で怒鳴り、その場にあった机をドン!と、ぶっ叩いた。
「おぉ、恐ろしい…… では、これでどうでしょう?」
男たちに睨み囲まれ、肥えた男は震える指で、珠盤を弾いた。
その値段を見て男たちの顔が紅潮した。
「ふざけやがって!」
先ほど、ぶっ叩いた机を頭上高く持ち上げると、その場に叩きつけた。
「てめぇ!ふざけるのもいいかげんにしろや! 俺らが漁師だから馬鹿にしてやがって! 今この場でテメーの手足一本、折ってやってもいいんだぞ!」
「申し訳ございません!」
粉々になった机の横で、男たちの脅しに丸い体をさらに丸くしてしながら土下座して謝ると、最初の金額をニ倍にして男たちに提示した。
それを見た男たちはお互い目を配らせた。三人とも一刻もこの場から早く去りたい。
一人がコクリとうなずくと、「それでいい」と肥えた男に言った。
男たちは金を受け取ると、足早に部屋を出て行った。




