捌ノ二
「これは、これは…… こんな夜更けに、いらしゃいませ」
男たちが部屋の中へ入ると、丸くでっぷりしたカロックの男が出迎えた。
薄暗い部屋には、背の低い太った男一人しか見当たらない。緊張がほどけたのか、男たち三人は運んできた荷物をゆっくりと床の上に下ろすと、すぐさま「いくらだ?」と、包んでいた布をめくった。
でっぷりとした男はギョロっとした目を見開き、わざとらしい驚いた顔で、床の上の物を見てから男たちの顔をまじまじと見ると、男たちは顔をそむけた。
男の一人が運んできた荷物をあごでしゃくり
「いくらになると聞いている」と、もう一度訊いた。
緊張かそれとも後ろめたい気持ちをほぐすためたのか、男の口から酒の臭いがした。
「ガキだが、リロックだ。それなりになるだろ?」
男たちが運んできたのは、リロックの少女だった。
「ほぉー」
肥えた男は口をつぼめて、ただ少女を見ているだけだ。
長い黒髪の十三、五歳くらいの少女だった。ここまで運ばれてきても目を覚まさないのは多分、薬か何かで眠らされているのだろう。
男の一人がチッと、舌打ちした。肥えた男の小ばかにした表情にいらだったのだろう。隣にいた男が落ちつかせるように腕をつかんだ。
そんな男たちの態度にお構いなしにでっぷりとした男は、男たちが運んできたリロックの少女に触れもせず、ただまじまじと見ているだけだった。
「――そうですね。確かに綺麗な顔をしている……。ですけど……」
肥えた男のもったいぶった言い方にイライラしながら、男の一人ができるだげ落ち着いた口調で訊いた。
「ですけど、なんだ……」
「この娘は朱明国の娘です。リロックとなると、その……、探している者がいるかも……」
「くそが!」男が床にツバをはいた。
「そう言って、安く買い取る気だろ! わかっているぞ!」
我慢に耐えきれなくなった、男が声を荒げた。
「そんな、めっそうもない! ……ですが、探している者が現れると……」
丸く肥えたカロックの怯えた声を男の一人がさえぎった。
「俺は聞いたんだ! この前、ここでリロックのガキが高値で売れたって話を! そいつからこの場所を聞いたんだ! 騙そうとしてるなら無駄だぞ!」
ひんやりとした石造りの室内に男の怒鳴り声が響く。
肥えた男は、顎の肉を振るわせ首を横に振った。
「とんでもないです! だますつもりなんて! ただ一番高く買ってくれる妓楼に売るのは……。その…… この娘が朱明国の高貴な方だったら。もし、それがバレてしまったら……」
しどろもどろに肥えた男は話しを続けた。
「最近はその……、朱明国からの亡命が多くて、向こうは蒼国に比べてリロックが多いですし、流れついたのがすべて、華族って訳ではありませんし……」
つい先日、朱明国の華族の娘が妓楼に売られ、ひと悶着あって以来、蒼国側の取り締まりが厳しくなっているのを肥えた男は警戒しているのだ。




