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蒼碧のつかい  作者: ひよよ
上ノ編
48/65

漆ノ四


「ペルの様子はどうだい?」


 翌朝タルオが薬湯を持って見舞いにきた。

 いつもヴェルクが寝起きしている寝台しんだいで、朝飯の粥を食べているペルの顔色を見るなり

「ペル、あんだけ無理をするなって言っただろ。おまえさんの悪いところは、貧しいくせにガキを拾ってくるところだよ。だからこうやって無理がたたるんだ」

「そうね……」とペルは苦笑した。


 朝食の残り火の竈で、タルオは調合してきた薬草を煮だした。

「私がこしらえた薬湯やくとうより、もっとましな薬があればねぇ。少しは好くなるだろうに……」


 タルオは遅い朝飯を食っているキッセはチラりと見た。

「キッセ! あんた、高い薬を買えとまではいわんが、ここに世話になっているんだろ。ペルに何か滋養があるものでも食わせてなりな!」


 ふんっと鼻をならして、タルオは出来上がった薬湯やくとうをペルのもとへと運んだ。


(タルオばーさんも一理あるな)

 キッセは今日、月一回休みの日だった。高価な薬は買えないが、ペルのために何か美味しいものを探してみようと思った。



♢♢♢



 何を買ったらペルが喜ぶか思いつかないキッセは結局、働き先の名物の豆菓子を買い、帰ろうと歩いていると、道端でアジルを見かけた。

 アジルは大きな籠を背負って、幼いガロの女の子と話しているがなんだか様子がおかしい。

 キッセは身ぶり手ぶりで困り果てた顔をしているアジルのもとへと近寄った。


「どうしたんだんだ? アジル」

「キッセか、それが……」


 アジルは眉をひそめ幼い女の子を見て

「こいつ、何言っているかわからなくて……」


 キッセは首をかしげ

「さっきから、その籠の中身を売ってくれって言っているだろ……」

 それを聞くとアジルは急いで女の子に籠に入っていた魚の乾物を売った。


「助かったよ。それにしてもお前すごいな……。さっきの言葉わかるなんて」

「わかるも何も普通に話しただよ」


 アジルとキッセは昨晩喧嘩してたことをすっかり忘れていた。


「ごめんな、キッセ……。昨日は俺が悪かった。あの後、俺、ミシャにものすごく怒られた」

「私こそ言い過ぎた。ごめん、アジル」

 キッセとアジルはお互いに謝ると、アジルはまだ仕事があるといって別れた。


 キッセがその場を離れようとすると、先ほどアジルから魚の乾物を買った女の子が駆け寄ってきた。

『さっきはありがどう。これ、あげる』

 女の子はキッセに包み紙を渡すと足早に去って行った。

 受け取った包み紙を広げると小さな飴菓子が包まれていた。キッセは飴菓子を手に取り、口の中に放り込むと酸っぱくて甘いモレンの味がした。



 キッセは大通りを抜け、近道の細い路地を歩いていると『こんにちは』と、いきなり物陰から声を掛けられた。

 キッセは驚いて思わず足を止めると、声の主がキッセの目の間にスッと現れた。


『君はどこの出身?』

 男の声だった。

 男はキッセよりも背丈が高く、薄布うすぬの頭巾ずきんを頭から深く被っているせいで男の顔がよく見えない。男の問いに無言でいると


『やっぱりわからないか……』 

 男はキッセにお構いなしに話を続ける。


『そのなりじゃ、朱明国しゅめいこくの生まれではないね……。ねえ、キミなんで……』

『なんだオマエ! いきなり現れて』


 キッセの問いに男の顔が見えなくても、薄布の奥で男が驚いたのはわかった。

 真昼間なのに、薄暗い細い路地にはキッセと男以外、誰も見当たらない。キッセは逃げよとゆっくりと後ずさりし始めるた。


『怪しい者じゃないよ。だから逃げないで』

 男はかぶっていた薄布の頭巾ずきんを取ると、その姿にキッセは目を奪われた。

 背の高い男の体には頭部以外、体毛がなかった。その頭部の毛がサラりとした髪のみで顔つきがガロやカロックと全く違っていた。 


『あ、あんた何者だ?』

 男は目を丸くして驚いているキッセを見て


『……もしかして君、リロックを見るのが初めてかい?』

 男の言う通りだった。キッセはリロックを間近で見たのはこれが初めてだった。

 キッセはビィビから「リロックは耳と尾っぽ以外、体毛がないだけで特に変わりはないさ」と、聞いていたが、こんなに自分とかけ離れた還獣クワンシュだとは思いもしなかった。


(ビィビの奴、適当なこと言いやがって)


 キッセが想像していたリロックとかなり違っていたのだ。


「そう驚くことかい? ――でも、最近は靑都せいと以外にリロックがいるのもの珍しいし。この町では、西側しか見かけないからね……。それよりさ、なんか話してよ」


「はっ? あんたに話すことなんか何もないよ」

 男は再度、驚きながらどこかで確認がとれたがのように喜んでいる。


『不思議だね。君、どこをどう見たって貧しいガロのなのに、どうして蒼語そうご朱明語しゅめいごが話せるんだい?』


(――コイツ何を言っているんだ)

 キッセは怪訝な顔しながら、男の驚いた顔を見てふと思い出した。先ほどアジルも同じ顔していたからだ。そんなことよりこれ以上、知らないおかしな男に関わらない方がいいと思ったキッセは、その場から逃げようと走り始めると同時に、急にキッセの足がふらついた。


 ――目が回る


「まあ、いいや……」

 ふらつくキッセに男がゆっくりと近づいてきた。


「生意気そうなだけど、よく見ると可愛らしい顔をしているし、蒼語そうご朱明語しゅめいごを話せる還獣クワンシュなんて貴重だからね……」

 

 男の言葉を最後にキッセの意識は途絶えた。




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