陸ノ六
籠いっぱいに収穫したゼイティンを台車に乗せて運ぶと、小屋の外でが仕分けの作業をしているのが見えた。
「キッセ! そこの茣蓙の上に広げてくれる」
淡い桃色のほっかむりを被っているルーシが手を振っている。
ルーシに言われた通りに、キッセは茣蓙の上にゼイティロの実を広げた。
周りは山積みになったゼイティロの実がいくつもある。それを何人かの選別係の子が、収穫したゼイティロの実を色や大きさによって選別していた。
「キッセ、初仕事はどう?」
「まあまあ」と答えながら、ルーシが選別している青いゼイティロの実を手にとった。
「この実は、この後どうなるんだ?」
「青色以外はみんな出荷よ」
ルーシは振り向かずせっせと、ゼイティロの実を色分けごとに籠にいれている。
「キッセーー!」
キッセの姿に気づいたスリクが、大きな籠を背負って急いで駆け寄っていき、いちもくさんにキッセに抱きつきた。
「ボクね、ゼイティロを運んでいるんだ! もう十回は運んだよ」
と、誇らしげに胸を張った。
「ボクのお仕事は、ルーシが分けた実を向こうの小屋に持ってくの。向こうではボクの実をね。ギューって絞ってるんだよ!」
どうやったらこんなにも汚れるのだろうと、思うほどスリクの顔や手足が汚れていた。それだけ初仕事を頑張っているのが感じられた。
「淡い青い実は向こうの小屋で、油を絞っているのよ。青黒い実はこれから塩漬けの下ごしらえよ」
ルーシは立ち上がって、キッセに籠を背負うようにいった。
大きな背負い籠には青黒い実がたくさん入っている。同じ籠をルーシも背負い、行きましょと、一緒に歩き出した。
ルーシと一緒に近くの小屋へ行くと、キッセと同じ歳ぐらいのガロやカロックの女の子たちが、小屋の外の水場で収穫したゼイティロの実をきれいに洗い、壺に詰めている作業をしていた。
大きめの壺には、青黒いゼイティロの実がぎっしり入っていて、その他の色に仕分けされた実は木箱に入れられ、キッセの背丈ほどの高さに積まれていた。
「木箱のやつは殆ど石鹸屋に運ばれて、壺のやつは一週間真水に漬けるの。水は毎日替えてね。そのあとは海岸沿いにある小屋に運ばれて海水に漬けこむの」
「海の水を?」
「そうよ。初めは一週間ごとに海水を取り換えてね。二ヶ月目からは海水が汚れたら替えるって感じで、半年ぐらいでゼイティロの塩漬けの完成かな」
話しながらルーシはおもむろにキッセの腕をつかんだ。
「キッセ、怪我してるわ!」
よく見るとキッセの腕から血が垂れていた。
「平気だ、こんなかすり傷……」
「だめよ、ちゃんと手当しないと化膿したら大変よ」
ルーシはキッセの傷口をきれいに水で洗い、持っていた傷薬の軟膏を塗って清潔な布をあてた。
キッセは手際よく手当するルーシを見て
(ルーシは色んな事ができる。私は何一つ、知らないしできない……)
手当の仕方一つ知らない自分が恥ずかしかった。
キッセは働くことががこんなに大変だとは思いもよらなかった。
効率よく実を落とさなければ大人に怒られ、朝から夕方まで、ひたすら働くのは本当に辛かった。それでも途中で逃げ出さずに終えたのは、ビィビやルーシたちのおかげだった。
特にスリクはキッセと同じ初めての労働なのに、小さな体でしっかり働いた。
疲れているにも関わらないのに、誰かから貰ったねじり菓子をキッセにこっそり分けて「頑張ろうね」と励ましてくれた。
こんなチビ助に言われるなんて思いながら、キッセはそれがなんだか嬉しかった。
中でも一番働いていたのはビィビだった。
キッセと同じ収穫だけの仕事だと思っていたが、ビィビは油の質やゼイティロの塩漬けの出来など、朝からトト馬に乗ってあちらこちらに出かけては、夜遅くまで手紙にまとめていた。
♢♢♢
長いようであっという間の一か月だった。
帰りはブェクルとアジルがトト馬の幌馬車で迎えに来てくれた。賃金をもらっての帰路なので、子どもたちだけでは危険だからだ。
久しぶりにヴェルクとアジルの顔を見て、ホッと安堵した自分にキッセは驚いた。
賃金と一緒に大きな甕には、しぼりたてのゼイティンの油がたっぷり入っている。
「タルオの婆さんがよだれたらして待ってるぜ」
アジルが言うとみんな一斉に笑った。
幌馬車の中は心地よい風とともに新鮮なヤーブは若草の香りがした。




