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蒼碧のつかい  作者: ひよよ
上ノ編
44/65

陸ノ六

 

 籠いっぱいに収穫したゼイティンを台車に乗せて運ぶと、小屋の外でが仕分けの作業をしているのが見えた。


「キッセ! そこの茣蓙ござの上に広げてくれる」

 淡い桃色のほっかむりを被っているルーシが手を振っている。


 ルーシに言われた通りに、キッセは茣蓙の上にゼイティロの実を広げた。

 周りは山積みになったゼイティロの実がいくつもある。それを何人かの選別係の子が、収穫したゼイティロの実を色や大きさによって選別せんべつしていた。


「キッセ、初仕事はどう?」

「まあまあ」と答えながら、ルーシが選別している青いゼイティロの実を手にとった。


「この実は、この後どうなるんだ?」

「青色以外はみんな出荷よ」

 ルーシは振り向かずせっせと、ゼイティロの実を色分けごとに籠にいれている。


「キッセーー!」

 キッセの姿に気づいたスリクが、大きな籠を背負って急いで駆け寄っていき、いちもくさんにキッセに抱きつきた。


「ボクね、ゼイティロを運んでいるんだ! もう十回は運んだよ」

 と、誇らしげに胸を張った。


「ボクのお仕事は、ルーシが分けた実を向こうの小屋に持ってくの。向こうではボクの実をね。ギューって絞ってるんだよ!」

 どうやったらこんなにも汚れるのだろうと、思うほどスリクの顔や手足が汚れていた。それだけ初仕事を頑張っているのが感じられた。


「淡い青い実は向こうの小屋で、ヤーブを絞っているのよ。青黒い実はこれから塩漬けの下ごしらえよ」


 ルーシは立ち上がって、キッセに籠を背負うようにいった。

 大きな背負い籠には青黒い実がたくさん入っている。同じ籠をルーシも背負い、行きましょと、一緒に歩き出した。

 

 ルーシと一緒に近くの小屋へ行くと、キッセと同じ歳ぐらいのガロやカロックの女の子たちが、小屋の外の水場アーロィで収穫したゼイティロの実をきれいに洗い、壺に詰めている作業をしていた。

 大きめの壺には、青黒いゼイティロの実がぎっしり入っていて、その他の色に仕分けされた実は木箱に入れられ、キッセの背丈ほどの高さに積まれていた。


「木箱のやつは殆ど石鹸ヤポン屋に運ばれて、壺のやつは一週間真水に漬けるの。水は毎日替えてね。そのあとは海岸沿いにある小屋に運ばれて海水に漬けこむの」

「海の水を?」

「そうよ。初めは一週間ごとに海水を取り換えてね。二ヶ月目からは海水が汚れたら替えるって感じで、半年ぐらいでゼイティロの塩漬けの完成かな」

 

 話しながらルーシはおもむろにキッセの腕をつかんだ。


「キッセ、怪我してるわ!」

 よく見るとキッセの腕から血が垂れていた。


「平気だ、こんなかすり傷……」

「だめよ、ちゃんと手当しないと化膿したら大変よ」

 ルーシはキッセの傷口をきれいに水で洗い、持っていた傷薬の軟膏を塗って清潔な布をあてた。

 キッセは手際よく手当するルーシを見て

(ルーシは色んな事ができる。私は何一つ、知らないしできない……)

 手当の仕方一つ知らない自分が恥ずかしかった。



 キッセは働くことががこんなに大変だとは思いもよらなかった。

 効率よく実を落とさなければ大人に怒られ、朝から夕方まで、ひたすら働くのは本当に辛かった。それでも途中で逃げ出さずに終えたのは、ビィビやルーシたちのおかげだった。

 特にスリクはキッセと同じ初めての労働なのに、小さな体でしっかり働いた。

 疲れているにも関わらないのに、誰かから貰ったねじり菓子をキッセにこっそり分けて「頑張ろうね」と励ましてくれた。

 こんなチビ助に言われるなんて思いながら、キッセはそれがなんだか嬉しかった。


 中でも一番働いていたのはビィビだった。

 キッセと同じ収穫だけの仕事だと思っていたが、ビィビはヤーブの質やゼイティロの塩漬けの出来など、朝からトト馬に乗ってあちらこちらに出かけては、夜遅くまで手紙にまとめていた。



♢♢♢



 長いようであっという間の一か月だった。

 帰りはブェクルとアジルがトト馬の幌馬車で迎えに来てくれた。賃金をもらっての帰路なので、子どもたちだけでは危険だからだ。

 久しぶりにヴェルクとアジルの顔を見て、ホッと安堵した自分にキッセは驚いた。

 賃金と一緒に大きなかめには、しぼりたてのゼイティンのヤーブがたっぷり入っている。


「タルオの婆さんがよだれたらして待ってるぜ」


 アジルが言うとみんな一斉に笑った。

 幌馬車の中は心地よい風とともに新鮮なヤーブは若草の香りがした。




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