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蒼碧のつかい  作者: ひよよ
上ノ編
42/65

陸ノ四

 

 昨日は慣れない移動で疲れたせいもあってか、ぐっすり眠れたキッセは朝早くに目が覚めた。

 まだ朝飯まで時間がある。キッセはまだ寝ている、ルーシとスリクを起こさないように、こっそり小屋を出た。


 少し肌寒いが空気がひんやりしていて、秋の気配を感じる。

 遠くでが昇り始めている。空は彼方遠くまで広がり、肩を並べるように海がキラキラと眩しく光っていた。

 思ったより丘高いところなんだとキッセは思った。

 丘の上から見渡す風景はとても広大だった。こんなに広い世界が、この世に存在するなんて、キッセは目の前の光景が信じられなかった。

 今も山深い横李おうりいたら、こんな素晴らしい景色を見ることはなかっただろう。


「おはよう、キッセ。ずいぶん早起きだな」

 背後からビィビが声をかけた。


寝台しんだいに居ないと思ったら、こんなところにいやがった)


「あんたこそ、こんな早くから何してるんだ?」

「まあ、いろいろとね。――それより、まだ朝飯には早いから、ここ案内してやるよ」


(――案内が好きなやつだ)

 半ばあきれながら、キッセはビィビについていった。


「まずは……、あそこにある木箱には近づかないように」

 ビィビが指さす方を見ると、木箱があった。

 周りをよく見ると、ゼイティロの木陰に隠れるように木箱がいくつも置いてあった。


「何だい? あの木箱は」

「あれは蜜蜂ポーの巣箱だよ」

「ポー?」


 ビィビは「静かに」と、キッセと一緒にそっと木箱に近づいた。

 木箱には入口らしき小さな穴が開いてあり、指先ぐらいの小さな虫が数匹いた。


「もう少し日が昇って暖かくなったら、たくさんの蜜蜂ポーが飛び交うよ。何もしなければポーは大人しい虫なんだけど、こっちに敵意を感じるとお尻の針で刺してくるから気をつけろよ」


 キッセは少し後ずさった。


「なんでそんな危ない虫を置いているんだよ」

蜜蜂ポーは花の蜜、蜂蜜ルノを採取する虫なんだ。その時、蜜蜂ポーの花粉媒介のおかげでゼイティロが受粉……」

 ビィビの難しい説明にキッセの眉間にしわが寄る。


「とにかく、蜜蜂ポーおかげでゼイティロの実が生るってわけ」

「そうなのか」

 キッセは関心なさそうにしながら、蜜蜂ポーの巣箱から離れようと心持ち速足だ。


「もう夏の終わりだから、蜂蜜ルノの収穫はしてないけど、春から夏にかけて蜜蜂ポーが集めた蜂蜜ルノを採るのさ。蜂蜜ルノは薬になるし、蜜ろうは明り取りなる。――本当に貴重な虫さ」

「あんたよく知っているね」

「まあね。店でいろいろ扱っているから、いやでも憶えないと仕事にならないし怒れる」


 ビィビとキッセは丘を上がって行った。海から昇った太陽の光が二人の顔を照らす。

 遠くから見るとわからなかったが、丘は結構な急斜面で赤茶けた土に、細かい石ころがゴロゴロと転がっている。


「この丘は古い木が多くて、樹齢二五〇年ぐらいはザラなんだ。ここ辺一帯はタジャスカの丘って呼ばれていて、その理由わけは……」

 小高い丘のてっぺんに近づくと「あれさ」と、ビィビが指さした先には、ゼイティロと違う立派な巨樹きょじゅが見えた。


「あれはネサの木さ。ここのご神木でタジャスカって呼ばれている」


 キッセはふっと横李おうりの森でも同じ木があったのを思い出した。

(あの巨樹はネサの木だったのか……)

 ビィビは何かに気が付いたのか、いきなり駆けだしたので、キッセも一緒についていった。


「今年はずいぶん、めんこい子を連れてきたな」

 ご神木のタジャスカの根元に置いてある小さな腰掛けに、ちんまりと座っていたガロの老人がこちらに気が付いた。


「おはようございます。パブロさん——キッセ、この方はこのタジャスカの丘のぬしさ」

「今年も頼むよ ——ビィビ」

 木の枝みたいな痩せこけたパブロはニコリと笑うと、顔中が深いしわで目が埋まった。うっすら濁った目でキッセのまじまじと見た。


「おお。よく見ると片目が青珠あおだまか……。こりゃ縁起がええのう」

 キッセは生まれつき片目が薄い青色だった。今まで自分の目の色など全く知らなかったが、ルーシに言われて初めて片目が青色たと知った。


「今年はたっといあたりへ献上できるかもしれんなぁ」

 パブロが嬉しそうに言った。


「たっとい?」キッセは首をかしげた。


「帝のことさ。パブロさんの畑のゼイティロはここら辺りでは一番の上等品で、毎年帝の献上品けんじょうひんになっていたんだけど……」

 ビィビは気遣うようにパブロをちらりと見た。

「ここ何年かは出来があまり良くなくて……。昨年は隣の村の畑の物が献上けんじょうされたんだ……」


 ビィビの話に、パブロはホッホッホォ、と小さく笑うと、皺だらけの小さな手で大切そうにご神木タジャスカの木に触れた。

「善きも悪きもすべては蒼龍そうりゅう様の思し召し。——それよかビィビ、ちとよいか?」

ビィビはこくりとうなずくいた。

「キッセ、おいらはパブロさんと話があるから先に戻ってくれ。そろそろ、ルーシたちも起きているはずだ」

 キッセはその場を後にした。


 キッセが小屋に戻るとルーシとスリクはとっくに起きていた。

 一緒に顔を洗い、食事の小屋で朝飯を食べているとビィビが遅れて入ってきた。

 朝飯が終わるとキッセとビィビは収穫場しゅうかくばへ、ルーシとスリクは選果小屋せんかごやへとそれぞれ持ち場へと別れた。



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