壱ノ三
町外れにある小さな廃墟の納屋。
使われなくなり放置されていた納屋は、地面が剥きだしで、辛うじて雨風が防げる。
そんな窮屈で不衛生な納屋には、つねに十数人のガロの孤児でひしめきあっていた。
朽ち果てた納屋に棲みついている孤児たちの間には、特にこれと言った決まりごとなどはなかったが、みんな無意識に守っていることが一つあった。
――孤児同時、争わない。
別に偉ぶっているのではない。争わない理由は簡単だ。ただでさえガロの孤児というだけで、町の住人から嫌われている。
その中で孤児同士、憎み合っている場合ではなかったからだ。それになるべく余計な体力は消耗したくない。ここでは皆が常に空腹だからだ。
それともう一つキッセの中で決まりがある。
――誰とも親しくならない。
仲間がいると心強い。だけど一人で行動するには理由がある。
ここにいる孤児たちが、必要以上に親しくならないのは、昨日まで隣で寝起きを共にしていた子が、突然いなくなるからだ。
「またか……」
何度思ったことか――本当にふと、いなくなり二度と姿を見ることはなかった……。
何故いなくなるのか、わからなかった。
この町を出て、ほかの町に移動したのならまだいいが、盗みなどで捕まり、なぶり殺されたのか、もしくは栄養失調で野垂れ死し、肉食の毛の物〈獣〉たちが森の奥深くに引きずりこんだのか。
実際に居なくなった奴から聞く事もできないので、真相はわからない。
確かなのは跡形もなく消えてしまうことだった。
キッセも幼い頃は、突然消えて居なくなった子をよく探しに行っていたが、今ではそれは、無駄な行為だと分かった。
いくら心配し、悲しみに暮れて一日中、探し歩いても見つかる事はなかった。
姿はなく、後に残るのは疲れと虚しさと空腹だけだった。
それでも孤児の中には幼い子同士、寂しさあって一緒に過ごしたり、面倒見がよい子は、他の子の世話を妬いたりする子もいたが、キッセは一切ツルむことはしなかった。
常に警戒しながら素早く動く。
慎重に行動しているキッセにとって、仲間などは足でまといになるだけだった。
今は突然、孤児の誰かが消えてもキッセにはどうでもよかった。――考えるのは無駄。ようは親しくならなければいいのだ。
だからキッセは、隣で寝起きしている子の名前もちろん顔すら、あえて覚えようともしなかった。
孤児が消えても、不思議とまたどこからともなく身知らずのガロの孤児が現れた。
だからボロの納屋は四六時中、つねに孤児で満杯状態だった。