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蒼碧のつかい  作者: ひよよ
上ノ編
39/65

陸ノ章 労働

 

 日が暮れはじめると、音虫おとむしが聞こえ、開いた戸口とぐちから涼しい秋風が心地よい晩。

 使い込まれた食台を皆で囲みながら、夕飯を食べているとペルが言った。

「明日からキッセにも働いてもらうわよ」

 

 ――ゼイティロの収穫が始まるのだ。

 雨が少なく温暖な気候に恵まれた江汐こうしほは、塩と石鹸ヤポンそしてヤーブの名産地であった。その石鹸ヤポンヤーブはゼイティロの実から作られている。

 この時期になると町から離れたゼイティロ畑で、約ひと月の間ゼイティロの実の収穫の仕事がこの家の恒例行事になっていた。毎年、ペルとビィビとルーシの三人で行っていたが、今年はペルの代わりにキッセとスリクが同行することになった。


 これに一番喜んだのはスリクだった。

 毎年ひと月の間、タルオさんとの退屈なお留守番が無くなり、ずっと行きたかったゼイティロの収穫に行ける。――それもキッセも一緒にだ。


「――いい、スリク。よく聞いて」

 ペルははしゃぐスリクを隣に座らせ、スリクの手の上に自分の手をを置いた。


「スリク、ゼイティロの収穫は遊びじゃないのよ。これはお仕事なのだからしっかりと働かないといけないの。――ビィビとルーシの言うことはちゃんと聞いて守ること! わかった?」

「うん、わかった!」

 ペルが何度も念を押すようスリクに言い聞かせても、スリクは興奮していて、それどころではなかった。



♢♢♢


 

 次の日の早朝。

 陽が昇る前に家を出るので、集合場所までヴェルクが一緒についてきた。

 スリクは寝坊したら置いていかれると思ったのか昨夜は一睡もできず、朝一番に誰よりも早く身支度を終わらせていた。

 キッセもあまり眠れなかった。初めて行く場所はどことなく緊張する。

 前の晩、ルーシに旅支度たびじたくを手伝ってもらった風呂敷に包んだ荷物を肩に掛け、皆と一緒に家を出た。



 待ち合わせ場所に着くと、幌馬車ほろばしゃと麦で編んだ帽子を被っている二頭のトトうまが見えた。


「おはよう、ビィビ! 一年ぶりだな!元気にしていたか」

 こちらに気づいた若いカロックが大声で手を振っている。


「おはよう、ニミージ。そっちこそ変わらないな!」

 ビィビは駆け寄り、お互い再会の肩を抱いた。


「よう、ビィビか久しぶりだな!」

 ビィビの声を聞いて大きな腹をぼりぼり掻きながら、小太りのカロックが出てきた。


「おはようございます。フリッソさん。お元気でしたか?」

「俺はこの通り変わらんよ」

 ビィビとの一年ぶりの再会にフリッソはニィと笑い、握手を交わした。

 

「ビィビ、今年は何だか見かけない子がいるね。今年も三人かい?」

 ビィビの後にやってきたキッセたちを見て、ニミージが言った。


「いいや。今年は四人だ」

 ビィビの言葉に一番驚いたのがフリッソだった。


「おいおい、まさか四人目はそのおチビさんか? そいつは収穫するのには、ちと難しいな」

 フリッソがスリクを見てあごをしゃくった。


「フリッソさん。こいつは摘み取りじゃくて、選果せんかさ」

 ビィビの言葉にまたもやフリッソは驚き、豪快に大声で笑った。


「ビィビ、寝ぼけているのか? こーんなチビ助に選別せんべつなんて、できるわけないだろ」

「ボクできるもん!」

 ビィビの隣でスリクが顔を真っ赤にすると、ビィビはスリクを自分のそばに寄せた。


「確かにこいつはチビ助だが、仕事はちゃんとやる。パブロさんにも話してあるし、責任はオイラが取るさ」

「おっかさんが恋しくなっても、途中で帰れないんだぞ」

 フリッソはスリクのちいさな頭をワシワシと撫でた。


「いいじゃないか、フリッソ。パブロさんも知っているみたいだし、ガキのころから仕事を覚えるのはいいことさ」

 ニミージが割って入った。


「まぁ、ビィビ、お前さんが責任とるなら、俺には関係ないし好きにしな」

 そう言いながらフリッソはどうだかと疑い目でスリクを見ながら、二頭のトト馬の様子を見に行った。


 幌馬車のほろは後部と側面の一部が半分だけ巻くってあった。

「荷物が多くて少し狭いが、我慢してくれ」と、フリッソが言うと「大丈夫さ」と、ビィビが後部から荷室にしつに乗り込み、そのあとをキッセが乗った。


 荷室にしつには町で仕入れた荷物も乗っているので、確かに少し狭い。だけど乗るのはキッセたちだけなので、そんなに窮屈ではなかった。

 ルーシが荷室にしつに乗り込むと、ヴェルクは持っていた荷物をルーシに渡した。

 フリッソに小馬鹿にされたスリクはまだ機嫌が悪かった。ヴェルクはひょいとスリクを抱え上げ、じーっとスリクの顔を見つめた。

 スリクはヴェルクの目を見つめ、一文字の口をひらいた。


「ボク、頑張るよ」

 ヴェルクはうなずき微笑むと、そのままスリクを荷室に乗せた。


「全員乗ったかい?」


 馭者台ぎょしゃだいからニミージが確認すると

「ああ! 全員乗った!」と、ビィビが荷室にひつを乗り出して大きな声で答えた。


「よし、出発だ」

 フリッソはパシっと手綱を振ると、二頭のトト馬がゆっくりと歩き始めた。


「いってきまーす!」

 皆で大きくヴェルクに手を振った。




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