伍ノ五
「タルオさんこれ、よかったどうぞ」
ロッテルから家へ戻ると、井戸端の腰掛に座って巻煙草吸っているタルオに、ルーシは先ほど包んでもらった揚げぺパを渡した。
「おぉ、揚げぺパか」
ルーシから渡された包みから匂いで、愛想の悪いタルオの目じりが和らいだ。
「今さっき、ロッテルの屋台で買ってきたのよ。タルオさんおすすめのお店でね」
「そうか、そうか」
タルオはまだほんのりと温かい包を嬉しそうに受け取った。
「最近、角部屋の屋根の調子が悪くてね。早いうちにヴェルクに見てもらいたんだが……」
ここの集合住宅の屋根や扉などが調子が悪くなるとヴェルクが修理をしていた。
「わかったわ。ヴェルクに伝えとく」
すまないねと、タルオは立ち上がると大切そうに揚げぺパの包みを抱え、自分の部屋へと戻って行った。
「ルーシ、私、サーシャの様子見て来るわ」
ミシャはサーシャに頼まれていた買い物とノコの茶を持って、サーシャの部屋へと入っていった。
♢♢♢
キッセとルーシはロッテルで買った荷物を部屋に運んだり、新鮮なうちに小魚をさばいたりと、いろいろやっているとあっという間に日が暮れた。いつのまにかビィビ以外、皆、仕事から帰宅していた。
今日の晩飯はルーシに教わってさばいた小魚の煮物と、芋と一緒に炊いたご飯だ。
晩御飯を食べ終え、一日の終わりに一息つくころ、キッセとアジルとスリクは屋上で寝そべっていた。
日中はまだ暑いが、夜になると心地よい夜風が吹き、風通しの悪い部屋より屋上の方が過ごしやすいかった。
今日は朝からロッテル行ったりと、忙しい日だったが充実した一日が過ぎ、ほっとしていた時、急に下の部屋が慌ただしくなった。
キッセが明かり窓から下を覗いてみるとペルやミシャが何やら準備はじめている。
「サーシャが産気ついたみたいだな」
隣で寝そべっていたアジルが言った。
サーシャは同じ集合住宅に住んでいる若いカロックの夫婦だ。
昼間ミシャがロッテルで頼まれた買い物を届けていた部屋の住人だ。サーシャが大きなおなかを抱えているのをキッセは何度も見かけ、ルーシはよく洗濯物を干すのを手伝っていた。
「サーシャの赤ちゃんが生まれるの!」
キッセの隣で寝そべっていたスリクがむくりと起き上がった。
「ああ、無事に生まれるといいな」と、アジルが言った。
「アジルはカロックなのか?」
キッセから唐突の質問に目を見開いたアジルは首を振った。
「俺は中途半端だ」
寝そべったまま足の裏をキッセに見せた。アジルの足の裏はキッセと同じだった。
ガロの手は人と同じ手の形だが、足の裏に肉球のようなものがある。これはガロが獣に近いためだ。
アジルはガロのように体毛が多いが、背丈もあり、顔つきも何となくカロックだ。だけど足の裏はキッセと同じだった。
「俺はこんな中途半端な姿で生まれたから捨てられたのさ」
何事なかったかのよう言うと、アジルは満点の星空を眺めた。
「スリク、こんなところにいたわ! もう寝る時間よ」
ルーシがスリクを探して梯子を上ってきた。
「僕、ここで寝る!」
「だめよ! あんた寝相が悪いから、夜中に天井から落ちてきたらたまったもんじゃないわ」
ルーシはづかづかと近寄り、嫌がるスリクの腕をつかんだ。
「スリクはペルの子か?」
キッセはなんとなくルーシに訊くと、「キッセでも冗談言うのね……。」ルーシは笑った。
「私、今からサーシャの手伝いにいくの! だからヴェルクと早く寝なさい」
駄々をこねるスリクを叱りながら、スリクと一緒に下の部屋へ降りていった。
キッセはきょとんとしていた。
「ペルの子?」と、聞いただけなのに、何故ルーシがそんなに大笑いしたのかがわからなかったからだ。
そんなキッセを横目で見たアジルがつぶやいた。
「……お前、もしかして、知らないのか?」
「何を?」と、答えるキッセをアジルはまじまじと見た。
「ガロは子を産めないってこと……」
ガロには性別は存在するのだが、生殖機能が無かった。
男は子を作れないし、女は子を孕むことができない。ガロから子は産まれる事はなく、カロックやリロックからガロが産まれるのだ。
成獣になっても体も小さいガロは、まともな労働力にならず、子も作れない。そのため生まれた時からやっかいものだった。
それでも昔は生まれくる数が少なかったので、ガロが生まれても、そんなに嫌がられる事は無かったが、ここ二十年近くはガロの出生数が倍増した。子を産んでも産んでも生まれてくる子がガロばかりだった。
それと同時に、国内では災害多くなり、生活が苦しくなる一方なのに国は何一つ政策をとらず、それどころか税が年々上がっていく一方だった。
子を捨てることは蒼国では禁じられているが、養うことができない貧しい家はこっそりと捨ててしまうことが多くなっていった。
(だから、ガロの孤児が減ることなく、あんなにたくさんいたのか……)
アジルの話しを聞いてキッセは孤児が増え続けている理由がわかった。それと同時に自分を産んだ親も、いらなくなって自分を捨てたのかと思うとやるせない気持ちになった。
キッセの気持ちに気づいたのか、アジルはキッセのポンと肩を叩いた。
「知らないことは別に悪いことじゃない。知ればいいだけの事さ……。そんなに思いつめるなよ」
そういって、アジルは少し離れたところで寝そべった。




