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蒼碧のつかい  作者: ひよよ
上ノ編
35/65

伍ノ三

 

 こうして歩いていると、いたるところに共同水場アーロィがある。

 横李おうりは、井戸ならそこ辺にあったので、特別水に困ることはなかったが、ここ江汐こうしほいろんな形の共同水場アーロィがあるのにキッセは驚いた。

 水が噴き出している――それは噴水ふんすいだとビィビに教わった。共同水場アーロィには驚いた。水場を用途ではなく、眺めるだけに作られていることに驚いたのだ。

江汐ここに来てから驚くことばかりだ……)


 ルブル地区の集合住宅ネビッサを抜け、しお大通りまで来た。

 ここまで来ると、町の活気がみえてくる。

 商店らしき店先では、ガロの下女げじょが掃き掃除をした後、みずを撒いていた。その横で大きな荷車に乗せた荷物をカロックの下男げなんが店の中に品物を運んでいたりと、朝から忙しいそうだ。


 ロッテルの朝市は、滄河さうがに架けられた五千橋ごせんばしを渡った先にある。

(本当に、でっかい橋だ……)


 あらためて間近で見ると、立派で見事な木造橋だった。

 親柱には立派な擬宝珠ぎぼうしゅがあり、橋のたもとには、キッセの背丈の何倍もの大きな石造りの常夜燈じょうやとうが二対あった。


 江汐こうしほは、帝都から流れてくる滄河さうがを挟んで、町が東と西に分かれている。

 西側は緩やかな丘陵きゅうりょうになっていて、一番の高台には景滄離宮えいそうりきゅうが建っており、そこから少し離れた中腹ちゅうふくには、華族がぞくの別荘地が広がっていた。丘を下っていくにつれ、豪商ごうしょうの屋敷がある。

 西側は皇族こうぞく華族かぞくそして一部の豪商ごうしょうしか住家じゅうかの建設の許可が許されていない。

 一方、東側はキッセたちがいるルブル地区をはじめ、多くの集合住宅ネビッサあり、江汐こうしほ蒼生そうせいの大半が東側に住んでいた。


 

 多くの還獣クワンシュたちが行きかう、五千橋ごせんばしを渡って行くと、欄干らんかんから遠く川岸に高く足場が組まれているのが見え、キッセがおもわず足を止めた。


「あれね、塔を建てているの。あの辺りはね、水陽師すいみょうじの寺院があって今度、凄い大きな塔が建つみたい」

 ルーシが急かすように早口いった。


 ここ数年続く災いを治める為、あおみかどが新たに多重塔たじゅうとう建立けんりつしていた。

 ここからでもかなり大きい建物だとわかる、間近で見たらどのくらいの大きさなのかキッセには見当が付かなかった。


「塔なんか建ててなんか意味があるのか?」キッセが訊くと

「蒼龍様が災いから、この国を救ってくださるのよ」

 ミシャが穏やかな声で答えた。


 その声と裏腹に、蒼龍そうりゅうという言葉を耳にすると、なぜだかキッセは嫌な気分になる。


「ヴェルクとアジルは、あそこで働いているんだよ」

 キッセのそんな気持ちもわからずに、スリクは無邪気に言った。


 五千橋ごせんばしは、五連の拱橋きょうきょう長大橋ながおおはしだ。弓状の反橋そりばしなため大きな荷馬車が通るのが難しい。そこで幅が広いが、流れが緩やかな滄河さうがでは、多くの渡し船が右往左往に動き巻いている。


 商人たちは荷物を小舟に載せては河を往来するので、大きな河は常に小舟であふれかえっていた。けれど船頭たちは心得たもので、を器用に操り、互いに避けながら船を漕いでいく。

 船を傷つけることなく、雁木がんぎに船つけ綱を投げると、受け取った男は綱を手早くつなぎ石に結び船を繋ぎ停めた。荷揚にあには荷物と一緒に乗っていた還獣クワンシュたちが、石積いしずみの階段上がり次々と陸へと上がっていく。

 

「すごいな。馬まで船に乗せている」

「あれは、馬船ばせんっていうんだよ」


 スリクが得意げに言うと

「ビィビの受け売りね」と、ルーシが眉根を寄せながら言った。


 キッセたちが先へ進まず橋の上で立ち尽くしていることに、ルーシがイラついているのが傍目でわかる。八つ当たりされたスリクは掴んでいたキッセ腕を離し、ぎゅっと下唇を噛んだ。

 

 うつむいているスリクの頭の天辺には小さな白い毛が見える。いつもキッセの隣に寝ていたミッケの頭にも同じように白い毛が生えていた。


 キッセは、活気よく賑わう、滄浪そうろうの河を見つめながら

「――スリク、あんたはすごいよ。私より小さいのに、色んなことを知っている」


 ぽつりと言ったキッセの言葉が嬉しくてスリクはキッセの手を強く握った。



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