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蒼碧のつかい  作者: ひよよ
上ノ編
32/65

肆ノ八


 アジルは飯をムシャムシャと食いながら

「何で、そんな山奥で暴動なんか起きたんだ?」

「何故かしらね……」 と、ペルが首をかたむけると、ルーシが、ふと思い出した。


「そういえば昼間、アーロィでおばさんたちが話していたわ! 青のかぜとか言う、変な輩が暴動を起こしたって」


「なんなんだ、その青い風って、悪い奴らなのか?」

 アジルが食べながら話すので、ミシャが注意した。


 ペルはキッセに目を向けると、キッセは匙を置き、ただ黙って両手のこぶしを握りしめていた。

 今も痩せこけ、ところどころ毛は抜け落ち、みそぼらしい姿のキッセだが、思った以上に回復が早くてペルは驚いた。

 今にも折れそうな細い体のどこに、そんな力が残っていたのか不思議でたまらなかった。



 あの時、荷台に揺れながら一度も目を覚ますことはなく、このまま死んでしまったらどうしようと、道中、ペルは気が気でなかった。

 だからキッセが家で意識を取り戻した時、驚いたと同時に内心ほっとした。

 

 いつもなら、ヴェルクの言うとおり、助からないからと諦めてその場を去るのだが、あの時はどうしても無視できなかった。

(今更だけど、なんで、あんなにむきになってキッセを連れて帰ってきたのかしら……)


 ヴェルクに反対されても、無理やり連れてきたペル自身も不思議でたまらなかった。

(何はともあれ、元気になってくれてよかった)


 ペルは白湯を飲み一息つくと

「――キッセ、あなたはこれからどうしたい?」

 ペルの問いにキッセは顔を上げた。


「道中、倒れていたのを勝手に連れてきたのは私たちだから、横李おうりに戻りたいのなら、送って行くわ……。

 でも、もし、あなたさえよければ、ここで一緒に暮らさない?」

 ペルの言葉に皆が一斉に、キッセを見た。


「ここで暮らすよ」

 ペルの提案に悩む様子もなくキッセはあっさりと答えた。


 キッセとしては特に深く考えることも無かった。

 横李あそこにはもう二度と戻りたくない。かと言って、今は他に行く所がない……。そしたら答えは簡単だ。しばらくここで厄介になって、嫌なったら逃げ出せばいいとキッセは思った。


「やった! 一緒に住むんだね!」

 食台の上に身を乗り出して、一番にスリクがはしゃいだ。


「スリク! 座りなさい!」

 キッセの隣に座っていたルーシはスリクを叱ると

「今日から私たちの家族ね。よろしくキッセ!」ギュッとキッセに抱きついた。


「今スグとは言わないけど、体調が整ったら、働いてもらうわよ」

 ペルはキッセの手を握り、歓迎の握手をした。


「あたりまえだ! 人通りが多い北江ほっこう街道を通って帰って来たのに、ムミ〈血吸ちすむし〉だらけのお前を乗せていたから、客を一人も乗せられなかったんだぞ! いい稼ぎになるのに!」

 アジルが身を乗り出し、飯を飛ばしながら言うと、ミシャに行儀が悪いと再び怒られた。


 皆の歓迎のあと、ひと段落ついてほっとしたペルが何を思い出した。

「そういえば、ビィビ。今日、具合が悪くて、はやびきしたんですって?」


 いきなりペルに不意を突かれて、ビィビは飲んでいた白湯がむせた。

「その……、ちょっと腹の具合が悪くて……。休みをペーボと代わってもらったんだよ」


 ゲホゲホと、バツ悪そうにビィビが言うと、ルーシが目を細めた。

「――その割にはたくさん食べたわね」


 つかさず、アジルがミシャにおかわりの催促しながら

「俺は帰り道に偶然、ムガップさんに会って聞かれたぜ。ビィビの食傷しょくしょうの具合はどうかい? って」

 それを聞いたペルは、目を丸くした。


「まあ! よりによって、番頭のムガップさんに! ビィビ、いい? いつも言っているでしょ! お仕事は信用が第一なのよ。来月だって収穫があるっていうのに!」

「わかっているよ……。ごめんなさい」


 ビィビは謝るが、それでも言い足りないペルが口を開きかけると、ヴェルクがペルの顔の前で、人差し指を立て横に振った。

 ヴェルクは眉を上げながら両手の手の平を広げ、『そのくらいで……』と言った。


「もう、わかったわよ! まったく、ヴェルクは甘いんだから」

 ブツブツと文句を言いながらペルは、冷たくなった白湯を飲み干した。


 ビィビはヴェルクに『ありがとう』と言うと、ヴェルクはニコリと笑って、残りの飯を食べた。




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