肆ノ八
アジルは飯をムシャムシャと食いながら
「何で、そんな山奥で暴動なんか起きたんだ?」
「何故かしらね……」 と、ペルが首をかたむけると、ルーシが、ふと思い出した。
「そういえば昼間、アーロィでおばさんたちが話していたわ! 青の凬とか言う、変な輩が暴動を起こしたって」
「なんなんだ、その青い風って、悪い奴らなのか?」
アジルが食べながら話すので、ミシャが注意した。
ペルはキッセに目を向けると、キッセは匙を置き、ただ黙って両手のこぶしを握りしめていた。
今も痩せこけ、ところどころ毛は抜け落ち、みそぼらしい姿のキッセだが、思った以上に回復が早くてペルは驚いた。
今にも折れそうな細い体のどこに、そんな力が残っていたのか不思議でたまらなかった。
あの時、荷台に揺れながら一度も目を覚ますことはなく、このまま死んでしまったらどうしようと、道中、ペルは気が気でなかった。
だからキッセが家で意識を取り戻した時、驚いたと同時に内心ほっとした。
いつもなら、ヴェルクの言うとおり、助からないからと諦めてその場を去るのだが、あの時はどうしても無視できなかった。
(今更だけど、なんで、あんなにむきになってキッセを連れて帰ってきたのかしら……)
ヴェルクに反対されても、無理やり連れてきたペル自身も不思議でたまらなかった。
(何はともあれ、元気になってくれてよかった)
ペルは白湯を飲み一息つくと
「――キッセ、あなたはこれからどうしたい?」
ペルの問いにキッセは顔を上げた。
「道中、倒れていたのを勝手に連れてきたのは私たちだから、横李に戻りたいのなら、送って行くわ……。
でも、もし、あなたさえよければ、ここで一緒に暮らさない?」
ペルの言葉に皆が一斉に、キッセを見た。
「ここで暮らすよ」
ペルの提案に悩む様子もなくキッセはあっさりと答えた。
キッセとしては特に深く考えることも無かった。
横李にはもう二度と戻りたくない。かと言って、今は他に行く所がない……。そしたら答えは簡単だ。しばらくここで厄介になって、嫌なったら逃げ出せばいいとキッセは思った。
「やった! 一緒に住むんだね!」
食台の上に身を乗り出して、一番にスリクがはしゃいだ。
「スリク! 座りなさい!」
キッセの隣に座っていたルーシはスリクを叱ると
「今日から私たちの家族ね。よろしくキッセ!」ギュッとキッセに抱きついた。
「今スグとは言わないけど、体調が整ったら、働いてもらうわよ」
ペルはキッセの手を握り、歓迎の握手をした。
「あたりまえだ! 人通りが多い北江街道を通って帰って来たのに、ムミ〈血吸い虫〉だらけのお前を乗せていたから、客を一人も乗せられなかったんだぞ! いい稼ぎになるのに!」
アジルが身を乗り出し、飯を飛ばしながら言うと、ミシャに行儀が悪いと再び怒られた。
皆の歓迎のあと、ひと段落ついてほっとしたペルが何を思い出した。
「そういえば、ビィビ。今日、具合が悪くて、はやびきしたんですって?」
いきなりペルに不意を突かれて、ビィビは飲んでいた白湯がむせた。
「その……、ちょっと腹の具合が悪くて……。休みをペーボと代わってもらったんだよ」
ゲホゲホと、バツ悪そうにビィビが言うと、ルーシが目を細めた。
「――その割にはたくさん食べたわね」
つかさず、アジルがミシャにおかわりの催促しながら
「俺は帰り道に偶然、ムガップさんに会って聞かれたぜ。ビィビの食傷の具合はどうかい? って」
それを聞いたペルは、目を丸くした。
「まあ! よりによって、番頭のムガップさんに! ビィビ、いい? いつも言っているでしょ! お仕事は信用が第一なのよ。来月だって収穫があるっていうのに!」
「わかっているよ……。ごめんなさい」
ビィビは謝るが、それでも言い足りないペルが口を開きかけると、ヴェルクがペルの顔の前で、人差し指を立て横に振った。
ヴェルクは眉を上げながら両手の手の平を広げ、『そのくらいで……』と言った。
「もう、わかったわよ! まったく、ヴェルクは甘いんだから」
ブツブツと文句を言いながらペルは、冷たくなった白湯を飲み干した。
ビィビはヴェルクに『ありがとう』と言うと、ヴェルクはニコリと笑って、残りの飯を食べた。




