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蒼碧のつかい  作者: ひよよ
上ノ編
30/65

肆ノ六


「ヴェルクはね、耳が聞こえないの。だから遠出の仕事には手話ができる私かアジルが、必ず一緒に行くことにしているのよ」


 行きは天候に恵まれ、予定通りに霖燈りんとうへ到着し、無事に荷物の納品を終えた。

 だが、翌日の早朝から大雨に見舞われた。

 雨は一向に弱まる気配はなく結局、丸二日間降り続け、ペルとヴェルクは霖燈りんとうで足止めを食らった。

 二日後、ようやく雨脚は弱くなったが、運が悪いのは重なるもので、江汐こうしほ霖燈りんとうを結ぶ江霖こうりん街道が通行できなくなってまった。


「大雨のせいで川が氾濫はんらんしてね。あちこち土砂が流れてしまって、そのせいで橋が崩壊ほうかいしてしまったの……」


 蒼国そうこくにはいたる所に、大小様々な川が無数にある。近年、この川の氾濫が酷くなっていた。


「ヴェルクと話し合って、少し遠回りになるけど、東燈とうとう街道の途中から逸れる山道を通って、北江ほっこう街道まで抜けることにしたの」


 帝都・あおの都と霖燈りんとうを結ぶ東燈とうとう街道から、北江ほっこう街道へと分岐する山道がある。

 この山道は冬は雪深く、トトうまで荷台を曳いて通るのは困難だが、今の季節ならそう難しくない。

 峠道を越えて滄河さうが沿いの北江ほっこう街道まで出られさえすれば、後は南へと下るだけで江汐こうしほへ戻れる。

 幸い、山の方では今回の雨の被害を聞かなかったので、少し遠回りになるが、ペルとヴェルクはこの道のりで帰路に着くことに決めた。慣れない山道に不安があったが、運よく霖燈りんとうから横李おうりへ行くという油屋の夫婦がいたので、一緒にその油屋の後をついて行くことにした。



 早朝、油屋の夫婦と共に霖燈りんとうを出発した。

 順調行けば、明日の日暮れ前には横李おうりに着く。


「荷台……、スカスカね」

『仕方がないさ』

 苦笑しながら、手話でヴェルクが言った。


 いつもなら霖燈りんとうから江汐こうしほへ行く旅人や、霖燈で仕入れた荷を乗せて帰るのだが、江霖こうりん街道のような比較的安全な道ではなく、見知らぬ山道を通るとなると、山賊などに出くわす可能性もある。それに、山道を慣れていないトトうまに出来るだけ負担が掛からないように、ヴェルクは荷台をできるだけ空にした。

 それでも途中まで乗せておくれと言われ、数人だが荷台に乗り込むと霖燈りんとうを後にした。

 山道手前の小さな村で、乗っていた環獣クワンシュたちが降りると、荷馬車にはルーシとヴェルク、そして手元にある納品書と通行木札つうこうきがたに、多少の旅荷だけだった。 


「みんな心配しているかしら? 帰りが予定より遅れているから……」

 ガランとなった荷台を覗きながら、ペルは心細い面持ちで言った。

 

 ヴェルクはフっと笑うと

『平気さ。皆しっかりしているし、君がいなくて楽しんでいるかもな』

「まぁ! ひどい!」

 ペルはプイっとむくれた。



 「俺らは今晩ここで野宿して、明日の早朝に出発するがどうする?」

 日が落ちる前に、荷馬車を停められる広場を見つけた油屋の亭主が訊いてきので、ペルたちもそれに従った。


 明日から本格的は山道に入る。ペルとヴェルクは簡単に夕飯を済ますと、早めに就寝した。



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