肆ノ六
「ヴェルクはね、耳が聞こえないの。だから遠出の仕事には手話ができる私かアジルが、必ず一緒に行くことにしているのよ」
行きは天候に恵まれ、予定通りに霖燈へ到着し、無事に荷物の納品を終えた。
だが、翌日の早朝から大雨に見舞われた。
雨は一向に弱まる気配はなく結局、丸二日間降り続け、ペルとヴェルクは霖燈で足止めを食らった。
二日後、ようやく雨脚は弱くなったが、運が悪いのは重なるもので、江汐と霖燈を結ぶ江霖街道が通行できなくなってまった。
「大雨のせいで川が氾濫してね。あちこち土砂が流れてしまって、そのせいで橋が崩壊してしまったの……」
蒼国にはいたる所に、大小様々な川が無数にある。近年、この川の氾濫が酷くなっていた。
「ヴェルクと話し合って、少し遠回りになるけど、東燈街道の途中から逸れる山道を通って、北江街道まで抜けることにしたの」
帝都・靑の都と霖燈を結ぶ東燈街道から、北江街道へと分岐する山道がある。
この山道は冬は雪深く、トト馬で荷台を曳いて通るのは困難だが、今の季節ならそう難しくない。
峠道を越えて滄河沿いの北江街道まで出られさえすれば、後は南へと下るだけで江汐へ戻れる。
幸い、山の方では今回の雨の被害を聞かなかったので、少し遠回りになるが、ペルとヴェルクはこの道のりで帰路に着くことに決めた。慣れない山道に不安があったが、運よく霖燈から横李へ行くという油屋の夫婦がいたので、一緒にその油屋の後をついて行くことにした。
早朝、油屋の夫婦と共に霖燈を出発した。
順調行けば、明日の日暮れ前には横李に着く。
「荷台……、スカスカね」
『仕方がないさ』
苦笑しながら、手話でヴェルクが言った。
いつもなら霖燈から江汐へ行く旅人や、霖燈で仕入れた荷を乗せて帰るのだが、江霖街道のような比較的安全な道ではなく、見知らぬ山道を通るとなると、山賊などに出くわす可能性もある。それに、山道を慣れていないトト馬に出来るだけ負担が掛からないように、ヴェルクは荷台をできるだけ空にした。
それでも途中まで乗せておくれと言われ、数人だが荷台に乗り込むと霖燈を後にした。
山道手前の小さな村で、乗っていた環獣たちが降りると、荷馬車にはルーシとヴェルク、そして手元にある納品書と通行木札に、多少の旅荷だけだった。
「みんな心配しているかしら? 帰りが予定より遅れているから……」
ガランとなった荷台を覗きながら、ペルは心細い面持ちで言った。
ヴェルクはフっと笑うと
『平気さ。皆しっかりしているし、君がいなくて楽しんでいるかもな』
「まぁ! ひどい!」
ペルはプイっとむくれた。
「俺らは今晩ここで野宿して、明日の早朝に出発するがどうする?」
日が落ちる前に、荷馬車を停められる広場を見つけた油屋の亭主が訊いてきので、ペルたちもそれに従った。
明日から本格的は山道に入る。ペルとヴェルクは簡単に夕飯を済ますと、早めに就寝した。




