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蒼碧のつかい  作者: ひよよ
上ノ編
3/69

壱ノニ

 

 キュルルルーー


 情けない腹の虫が鳴り響いた。

 キッセは荒れた手で、あちこちと毛が抜け落ちた腹を擦った。


 目が覚めて、動けば腹が減る。

 この世に生まれ落ちてから、キッセには空腹という魔物まものが常に付きまといキッセを苦しめた。起きている時はもちろん、夢の中でも空腹まものとの戦いだった。

 その中でキッセがどんなことよりも一番に覚えたことは、自分の食いぶちは自分で探すことだった。 

 幼い頃からが昇ると町の中心街に行き、何かを恵んでもらう為、一日中、が暮れるまで町中を歩いた。


 だけど、そう簡単にはいかない。

 食える物が、そうそうに道などに落ちてはいないし、食べ物を分けてくれる親切な者などいくら探してもこの世の中にはいない。


 成獣せいじゅう〈大人の環獣クワンシュ〉の中には、心の片隅ではキッセたち孤児を憐れだと思ってはいるが、孤児こじに食い物をやるほど生活に余裕などなかった。

 それに一度でも不憫ふびんに思い、食べ物なんか与えると、孤児たちはひっきりなしに付きまとうので、誰もが皆、見て見ぬふりをしていた。

 

 朝からが落ちるまで、町中を歩けば歩くほど腹は減り、疲れるだけだった。

 力尽ちからつき座って物乞ものごいをしても、食い物にはありつけない。それでも何日も食べられないでいると、年長の孤児こじがどこからか見つけてきた食べ物を恵んでくれた。

 食べ物とは程遠い、残飯さんぱんの残りカスや、カビの生えた野菜の皮をキッセは自分と同じ幼い孤児こじらと分け合って食べた。


 キッセは成長するにしたがって物乞ものごいいだけではなく、年長の孤児たちを真似して、自ら食べ物を探し、手に入れるようになった。

 田畑の作物を盗み、家畜かちくに与える残飯を漁り、町外れの森へ行っては木の実をかじり草花もむしって食べた。


 むろん窃盗せっとうもした。商店に並ぶ食い物をかすめ盗る。コツは欲張らず慎重に、一度盗んだ店には何度も足を運ばない。

――そして、ここが重要だ。金はけして盗らず、盗みは必ず一人でやる。


 生まれつきなのか、運がいいのか、キッセは他の孤児こじより器用で素早かった。だから今まで一度も捕まった事はなかったが、キッセはどんなに腹が減っていても、一度にたくさん盗らず、なるべく店の亭主に顔を憶えられないように、一度盗んだ店には、数か月は行かないようにした。

 

 そしてどんな事があってもキッセは、けして金を盗まなかった。


 孤児が金で物を買おうとしても――それがたとえ稼いだ金でも、盗んだ金とみなされ、誰も物など売ってくれず、下手をしたら逆に殴られ金をまきあげられる。


 孤児とは虫けらと同じ扱いなのだ。

 

 向こうも商売だ。小汚いガロのガキが、歩いているだけで普通に警戒される。

 店の亭主がどんくさいからと、数人の仲間で店を襲う奴らもいたが後日ごじつ、襲われた店がゴロツキなどをやとい、痛い目にあっている孤児をキッセは何度も目撃してきた。

 そういう時は酷いもので、相手が子どもだからといって容赦ようしゃはしない。見せしめにとことんヤラれる。

 

 キッセだって馬鹿ではない。盗みが悪いことぐらいわかる。

 心のどこかでは、罪悪感というものが存在していたのかもしれないが、それより何よりも腹が減っていた。


 毎日毎日、ただ空腹を満たすために生きていた。


 生きる為に食べでいるのではなく、食べるために生きていた。何でもいいから、とにかく腹いっぱいに飯を食いたかった。


 空腹は体と共に心もむしばんでいく。


 キッセは時々、気が向いた時だけ、自分よりも幼い孤児に食べ物を分けてやることがあった。——残飯ではなく、食べ物を。キッセ自身も幼い頃――残飯よりも酷かったが、年長の者から恵んで貰っていた事があったからだ。

 それに小さい子らに食べ物を分け与えるその時だけは、キッセの心の蝕みが微かに和らげた。



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