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蒼碧のつかい  作者: ひよよ
上ノ編
27/65

肆ノ三


 ビィビは一日中、キッセを江汐こうしほの隅々まで案内してくれた。

 見る物、食べる物、触れる物すべてにキッセは興奮し驚いた。


「最後はこっちだ」

 ビィビの後について細い路地を抜けると、いきなり目の前が開けた。


 キッセの目に飛び込んだ風景。すべてが青色だった……。

 雲一つない空も、見たこともない広さの池も、足元の砂も、全て青色一色だった。


「真っ青だ……」

 キッセは思わず息を飲んだ。


 空が、水が――いや、大きな池がどこまでも、どこまでも果てしなく続いている。その大きな池に沿って、淡い青い砂がずっと遠く先まで続いている。


 ――ザァーン…… ザァーン……


 遠くから聞こえてくる飲み込まれるような音と、洗濯物を干していた時に屋上で香ったあの匂いがする。


「いい匂いの池だな……」

 ぽつりと言ったキッセに、ビィビはニコリと笑った。


「やっぱり今日、連れて出して正解だ。――これは池じゃなくて海さ。それにいい香りだろ。この匂いは潮香しおかの香りだ」

「う、み? うみって言うのか、この大きな池……」

「あそこに波が見えるだろう?」


 ビィビが指した方向に白く泡立ちながら、引いたり戻ったりと水が動いているが見えた。

 ビィビは足元の薄青い砂を両手ですくうと、ビィビの手の隙間から薄青い砂がサラサラとこぼれた。それがとても綺麗でキッセも両手で砂をすくうと、手の隙間から砂をこぼした。


「海にはあの波と、この砂で出来た砂浜がある。それに……」

 ビィビは突然、その海に向かって走りだした。バシャバシャと波に足をつけると

「池との違いは、舐めてみるとわかるよ!」

 大きな声で手招きしてキッセを呼んだ。


 ビィビに呼ばれても、海があまりに広くてなんだか怖く感じた。


 キッセはゆっくりと浜辺へと歩いた。

 こころよい甘い潮香しおかの香りに、大きな波の音が響き、海に近づきにつれ、しっとりとした細かい青い砂が足の裏にまとわりつく。

 キッセは緊張しながら、波打ち際まで近づくと、ザブーンと大きな波がキッセ足を飲み込んだ。


(——冷たい)


 波がさらうたびに足の裏がこそばゆい。

 キッセはビィビに言われたとおりに、海水をそっとすくって、ペロりと舐めた。


「なんだ、これ! しょっぱい!」


 ぺっぺっと吐き出しているキッセの姿に、ビィビがケラケラと笑った。


「驚いた? 海は塩辛いんだよ!」

 頭にきたキッセは、ビィビ目掛けて海水を蹴り上げた。


「しょっぱ!」

 キッセもビィビと一緒にケラケラと笑った。

 


 ♢♢♢



 キッセは広大な海ずっと眺めていた。


「この海はどこまで続いているんだ?」

「うーん、どのくらいだろう? 海の果てに行った環獣クワンシュなんて聞いたことないから、わからないな……。でも、海は果てしないぐらい広いと思うよ」


 ビィビは拾った貝殻を、海に向かって投げた。


「ほら、あそこ海と空の境目が見えるだろう。あれは水平線って言うんだ」

 キッセは遠くの水平線を見た。

 海と空は同じ青色なのに遠くに一本の線がある。あれがずっと遠くまで続いていると思うと、海って途方もない広さだと思った。


「この海は青海せいかいその名の通り青い海さ。それに遠くに薄ら見える半島があるだろう」


 ビィビが指差した遥か遠くに、半島が霞んで見えた。

 山が連なるその半島は、海の果てまで続いていて、山頂の方は雲に覆われていてよく見えなかった。


「あれは竜尾半島りゅうびはんとうさ。あの竜尾りゅうび半島のさらに向こう側には溶炎ようえん朱明国しゅめいこくがあるんだよ」


 朝からずっとビィビと一緒にいるが、ビィビの口からは次から次と色んなことが出てくる。初めはひけらかす感じが鼻についたが、今では感心してビィビの話を聞いていた。


「ビィビあんた、何でも知っているんだな……」

「そんなことないよ。これくらい誰でも知っているさ」

 キッセに褒められ、ビィビは照れくさそうに背を向けた。


――誰でも知っている……。

 あっさりとビィビは言ったが、キッセは何一つ知らなかった。何も知らない世界でずっと生きていた……。そんな自分が惨めに思えた。



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