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蒼碧のつかい  作者: ひよよ
上ノ編
26/65

肆ノ二


 しお大通りを南へまっすぐに歩いて行くと、今度は大きな十字路が見えてきた。

 キッセは迷わないように、ビィビの後に付いて行き、その十字路を右へ曲がると、先の方に大きな橋の袂が見えた。

 橋のたもとまで近づき、間近に見ると橋の大きさに圧倒される。


「でっかい……、これが橋?」


 キッセは初めて見た、大きく立派な橋を橋だと理解するのに時間がかかった。横李おうりにはこんな立派な橋などなかったからだ。

 そして橋が架かる河にも驚いた。――とてつもなく大きい河だ。


「驚いたかい? この大河は滄河さうが。そして、滄河さうがに架かるこの橋は五千橋ごせんばしさ」


 滄河さうがの河幅はとても広く、向こう岸が小さく見える。

 その滄河さうが石積いしずみ橋脚きょうきゃくに、弓型ゆみがたった木造の大きな橋が五本も架けられている。


「大きな橋だろ! この五千橋ごせんばしの五つの橋が完成するまで、五千日もの月日がかかったって言われているんだ――兎にも角にも蒼国そうこくで一番大きな橋と河さ!」

 ビィビはへへへっと、胸を張った。


「橋を渡るのはまた今度なっ」

 ぽっかりと口を開いて五千橋ごせんばしを見ているキッセの肩を両手で押した。



 江汐こうしほは、北部にある帝都・あおみやこから流れこむ、大いなる滄河さうがを挟んで、東西に分かれている。

 東側は江汐こうしほ蒼生そうせいが暮らしており、緩やかな丘陵きゅうりょうが続く西側には、江汐こうしほの温暖な気候が好まれ、景滄離宮えいそうりきゅうをはじめとする華族かぞくたちの別荘地になっていた。

 そしてその東西を結ぶ、唯一の橋がこの五千橋ごせんばしだった。


 蒼国そうこくの南部にあたる江汐こうしほは、温暖な気候に作物が良く育ち、それに加え目の前の海からは、豊富な海産物に塩などが取れる恵まれた土地である。

 物が集まれば環獣クワンシュも集まる。昔から物流が盛んで商業が栄えた。多くの商人が店を構え、各地から環獣クワンシュたちが出入りする賑やかな町であった。



「このしお大通りと、五千ごせん通りがぶつかるこの十字路が、江汐こうしほの中心街さ」


 滄河さうが沿いの南北へ続くしお大通りと、五千橋ごせんばしが架かる東西の五千ごせん通りが、江汐こうしほの中心街でだ。港町みなとまち江汐こうしほ帝都ていとあおみやこに次ぐ、第二の都市だった。

 殺伐さつばつとした横李おうりの町しか知らなかったキッセにとって、江汐こうしほの町は驚きを通り越して、もはや衝撃だった。

 キッセがいた横李おうり環獣クワンシュの数もそうだが、カロックはしがない格好で、ガロは成獣せいじゅうでも衣など身に着けず、どこか疲れ切ったように歩いていた。

 それがここ江汐こうしほでは、成獣せいじゅうも子どもも、ガロもカロックも関係なく皆、ころもまといごく普通に歩いていた。


(――本当にいい天気だ)

 キッセはまぶしい青い空を見上げた。


 横李おうりのどんよりとした山奥と違って、江汐ここは暖かく、空を遮るものは何一つなく、雄大な滄河さうがの流れと共に暮らしている。

 なんだか擦れ違う環獣クワンシュたちの顔も明るく見えた。


(この町ではこれが、当たり前なんだ……)

 キッセは見慣れない光景のせいなのか、なんだか奇妙に感じた。



 キッセとビィビは五千橋ごせんばしを背に、五千ごせん通りを西へと向かって歩いた。


しお大通りは、北江ほっこう街道から江汐こうしほ入り門、潮門うしおもんを通ってこの市通しどうへと続くから、旅客を捕まえる宿屋や飯屋が多いんだ。

 そして、この五千ごせん通りはオイらたちが利用する商店がずらりと並んでる」


 ことあるごとに、キッセに説明しながらビィビは「ここで待っていて」と、言うと小さな商店に入っていった。

 しばらくすると何らを手にし、戻ってきた。


「さあ、食べよう!」

 ビィビが差し出したのは、円錐えんすいに巻かれた大きな笹の葉の中に、白い粉にまみれた丸い物が数個入っていた。

 キッセはいらないと断ったが、ビィビにしつこくうながされ、渋々一つ掴んだ。

 粉まみれで柔らかい、白い粉の物をそのまま口に入れると、ぐにゃりとした触感と甘い蜜が口にいっぱいに広がった。


「うまい!」


 それは蜜餅みつもちだった。柔らかい餅の中に、果物の蜜餡みつあんが包まれており、色によって違う味がする。

 キッセはとろける蜜餅みつもちに目を細めた。


「――やっと、笑ってくれた」

「なんか言ったか?」


 キッセに聞き返されると、ビィビは照れくさそうに、残りの蜜餅みつもち全部をキッセに渡すと、そそくさと先を歩いた。



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