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蒼碧のつかい  作者: ひよよ
上ノ編
25/65

肆ノ章 港町・江汐


「イタっ!」


 屋上にいたキッセの顔に何かが当たった。頬を擦っていると今度は腕に当たり、小さな小石が足元に転がった。

(――なんだ?)


 キッセが辺りをきょろきょろしていると

「おーぃ、おーぃ……」と、誰かが小さな声で呼んでいる。


 キッセは屋上から下をのぞいてみると、集合住宅ネビッサを囲む木の塀の外でビィビが手を振っていた。

「アンタ! 何してるのさ」

 キッセが大声で言うと、ビィビは慌ててシーっと口元に指を当て、こっちへ来いと手招きした。


(――めんどくさい奴だ)

 チッ、とキッセは舌打ちすると、屋上からヒョイっと家の戸口前に飛び降り、ルーシとスリクに見つからないように、塀の木の戸からこっそり表へと出た。

 キッセが共同水場アーロィの前にいくと、ビィビが驚いた顔で駆け寄ってきた。


「キッセ大丈夫か! いきなり屋上から飛び降りたからオイら、驚いたよ!」

 心配したビィビをよそに、キッセはうんざりした顔だ。

「何の用だよ、手招きなんかして」


 ビィビは用心深く周りを見回した。


「よし、チビ助はいないな。――キッセ、江汐こうしほを案内してやるよ」

 いきなりビィビにそんなこと言われ、キッセは少し戸惑った。


「いらないよ、案内なんて」


キッセはめんどくさそうに断ったが、そんなのお構いなしにビィビはキッセの手を引くと

「そんなこと言うなよ。キッセは江汐こうしほの町、初めてなんだろ。オイらいいところ知っているからさ!」

 半ば無理やりキッセを連れ出した。


 正直、キッセは町案内なんて興味が無かったけれど、ずっと寝込んでいて退屈だった。

 それにこれ以上、ルーシの手伝いもしたくなかったので、キッセはビィビの誘いに乗ることにした。



 ♢♢♢



「オイらたちが住んでいるこの場所は、江汐こうしほの東側でルブル地区って言うんだ。ルブルは江汐こうしほの言葉で白い物って意味さ。

 集合住宅ネビッサは白い漆喰ギリシで塗られているだろ。江汐こうしほでは漆喰ギリシの原料のライムせきが、豊富に採掘されるからこうやって壁に塗っているんだ」


 キッセはビィビの説明などまったく聞いていなかった。そんなことに気づかないのか、気づかないフリをしているのか、ビィビは話を続けた。


江汐こうしほは夏はとても暑いんだ。白い漆喰ギリシの壁は太陽の熱を和らげる効果があるから、塗っているんだ。それに見た目もきれいだろう?」


 何かにつれて説明をはじめるビィビに連れられ、キッセは細い路地をしばらく歩き、密集した白い集合住宅ネビッサを抜けると広い通りに出た。


「ここは、江汐こうしほの中心街……」



 ビィビの声など耳から離れ――キッセは目を奪われた。


 真っ白な広い道に、大勢の還獣クワンシュ

 道幅の広い大通り沿いを集合住宅ネビッサとは違う、間口まぐちが狭い木造の建物がびっしりと並んでいた。

 その一軒、一軒が屋根看板やねかんばん看板かんばんなどを掲げており、そこには宿やどめしなどの文字や絵が描かれている。


「いらっしゃい! お客さん寄ってきな!」

「毎度ありがとよ! またよろしく!」


 そこかしこから活気の好い声が飛び交っている。


「すごい……」


 あまりの凄さにキッセは圧倒され、茫然ぼうぜんと立ち尽くしていた。

 建物も立派だが、何といっても環獣クワンシュの多さだ。こんなに大勢の環獣クワンシュたちが行き交うのをキッセは初めて見た。

 目を見開いて、通りを見ているキッセの姿にビィビは何だか嬉しくなった。 


「真っ白な通りだろ。この大通りはしお大通りって言って、江汐こうしほで一番大きい通りなんだ。ここら辺りは、宿場しゅくば食事処しょくじどころの店ばかりさ。

 このまま、しお大通りを南へ行くと、五千ごせん通りにぶつかるから、そこまで行こう!」


 

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