参ノ六
ルーシと一緒に部屋に戻ると、ビィビとスリクの姿はなかった。
がらんとした薄暗い部屋をキッセは見渡した。
土間つくりの室内は食べる所と、寝る所の二部屋のみだ。戸口の古びた木の扉を開くと、すぐに台所と食卓がある。
戸口の横には跳ね上げ式の小さな窓が二か所あり、外へとつながっている小さな煙突が付いた煮炊きをする古びた小さな竈に、欠けた大きな水瓶、古い大きな鍋と小さな鍋が一つづつあった。
そのそばに皆が座ると少し窮屈になる、使い込まれた食台と大きさが違う丸椅子があった。
奥の部屋は、窓が一つも無く風通しが悪い。明かりといったら明り取りの天窓から差し込む、わずかな日の明かりのみだ。その微かな日の光が、白い漆喰の壁をうっすら照らしていた。
そこに寝台が一つと、棚には行李が三つ置いてあった。
狭い部屋だが隅まで掃除は行き届いていた。
この狭い室内で、吊り床〈ハンモック〉を吊るして寝起きをしているが、ヴェルクは大柄なので、寝台――ただの板張りの台の上で寝ていた。時々、その隣でスリクが一緒に寝ている。
雨が降らなければ、ビィビとアジルは屋上で寝ていた。その屋上へ行くには、壁際にある梯子を使う。
ルーシが洗濯を終えた籠を背負ったまま、壁際の梯子を上った。
後に続いてキッセも梯子を伝って屋上へと出た。
「ここら辺は、貧しい人たちのネビッサだらけよ」
ネビッサとは石と木で建てられ、漆喰を塗った真っ白な平屋の集合住宅だ。
ペルたちが暮らしている部屋と同じ部屋が、横並びに五部屋、背合わせで五部屋で全部で十部屋に、共同便所と洗い場が備わり、その周囲を木の塀で囲まれている。
屋上からは、このような集合住宅がひしめき合って、遠くまでびっしりと見えた。
ルーシは籠を置き、隅に転がっていた背丈より高い、木の柱を持ち上げていた。それを見てキッセも手伝った。
「キッセ、この柱をここの窪みに挿しこむの――」
屋上には、ところどころ窪みがあり、ルーシはその中の一つに木の柱を挿した。
「もう一本も、お願い」
間隔をあけて二本の柱を立てると、ルーシは籠からねじり縄を取り出した。
差し込んだ二本の柱の上部に穴があり、そこねじり縄に通し、結ぶと洗濯干し場が完成した。
集合住宅の屋根は、平べったい陸屋根で、洗濯物などはここで干している。屋上には柵などは無く、隣との区切りの縁石替わりの石が何個か置いてあるだけだった。
「とっとと、干しちゃいましょ」
そう言ってルーシは洗濯物を籠から取り出した。
キッセも手伝おうと、ちょうど近くに板の乗った出っ張りがあったので、足を掛けたら、慌ててルーシが止め、その板を持ち上げると、真下に部屋か見えた。
「これは明かり戸なの、板が腐ってるから、上に乗ったら下に落ちちゃうわ」
腐りかかっている、跳ね上げ式の板蓋をルーシは持ち上げ、固定した。
「集合住宅は玄関以外、すべて部屋同士がくっついているから、昼間でも暗いの。だから、こうやって、屋上のこの明かり戸を開けて、光や風を通すの」
確かに辺りを見渡すと、どの部屋の屋上には四、五ヶ所の明かり戸らしい出っ張りが見えた。
実際は光や風などは気晴らし程度しか通らないが、明かり戸があるのと無いのでは気分が違うとルーシは言った。
「気を付けて干してよ」
キッセはルーシに教わりながら、洗濯物を干しはじめた。




