弐ノ七
一通り洗い終わると、ペルは新しいお湯でキッセの体を洗い流した。
背中や腹、脇の辺りがヒリヒリと沁みる。耳の中も同様にヒリヒリと痛むが、なんだか聞こえ良くなった気がした。
ビィビが新しいお湯を盥にはると、ペルは先ほどタルオの持ってきた小さな壺の中身を入れた。
「これは乾燥させたジュプの葉を一晩、浸して煮詰めた薬液よ。――キッセあなた、栄養失調のせいもあるけど、皮膚病が酷いわ」
ペルはキッセをジュプの薬湯の中に座らせた。薄い緑色の湯は、濃い草の香りがした。
「これは皮膚病によく効くから、大分楽になるわよ。ここまで酷いと丸薬を飲ませてあけたいけど、うちにはそんな高価な薬は無いから……」
ペルは小さな桶で、薬湯がキッセの体全体に行き渡るように掛けた。
ジュプの薬湯は一瞬だけ沁みて痛かったが、浸かっているうちに、不思議と痛みが和らいでいった。
「タルオさん特製の薬液の効果は抜群なのよ」
ペルは細い棒に新しい布を巻きつけ、ジュプの薬湯に浸すと、キッセの耳の中を拭うった。耳の中は痛気持ちく、キッセは目を細めた。
「そんなお世辞を言っても何も出やせんよ!――それより……」
タルオは竈に固形燃料をくべ終え、再び懐から取り出した巻煙草に火を点けた。
「ペル、もうすぐゼイティロの収穫だろ?」
「もう、そんな時期? 一年って早いわね」
「そのガキも、行くんだろ?」
タルオはふぅーっと口から煙を吐きながら、キッセをチラッと見た。
「この子はまだ分からないわ……」
キッセに薬湯を掛けながらペルは苦笑した。
「働からかざる者、食うべからずって言うだろう。それに私はお世辞なんかより、新鮮な油の方が嬉しいねぇー」
タルオは吸い終えた巻煙草を焚き口に投げ入れ「よっこらしょ」と、立ち上がりのしのしと部屋へと戻って行った。
ビィビが鼻を摘まみながら
「ゼイティロの収穫なんて、まだ先なのになぁ……。タルオさん、ちゃっかり催促してらぁ」