弐ノ三
(ムミ……?)
キッセはまだ頭がうまく回らないのか、ペルが言っている事がよくわからなかった。
そんなキッセをよそに、ペルはキッセの肩に腕を回し入れ
「頑張ってみて」
キッセを立ち上がらせた。
脚にうまく力が入らなかったが、キッセはペルに支えられ立ち上がると、そのまま、先ほど遠くに感じた井戸の所まで連れて行かれた。
そこでは、ルーシと、ルーシと同い年くらいの、黒い体毛のサルに似たガロの少年がキビキビと手際よく、何かしらの準備をしていた。
その脇で幼いガロのスリクが、焚きつけの枝を数本抱えながらウロウロとしている。
井戸のすぐ隣には、簡単な雨よけ屋根の下に、小ぢんまりとした流し場と、大きな湯釜を乗せた竈があった。
竈の中では、炎がいきよいよく燃え、湯釜にはたっぷりの湯が沸いており、流し場には大きくて深めの盥が一つ置いてあった。
「ルーシ、ビィビ、ありがとう」
ペルはキッセを支えながらと、準備をしていた子らに、礼をいうと
「お安い御用さ」と、ビィビと呼ばれたガロの少年がいった。
「ボクも手伝ったよ!」
誇らしげな顔でスリクがペルを見つめた。その後ろで、どうだか? とビィビが両手を広げてみせた。
「えらいわ。スリク」
ペルは褒めながらルーシに目をやった。
こくりとルーシはうなずくと、嫌がるスリクの手を取ってその場を離れた。
ルーシとスリクが家の中に入ると見届けると
「さてさて、これで準備万端だ!」
ビィビはやる気満々だ。
キッセは一瞬、まさか煮て食べられるのかと思ったが、こんな痩せこけた自分は美味しくない。――では、何をされるのか?
用意されている盥を見て、体を洗われるのだとキッセは思った。
「キッセ、そこに座って」
(やはりか……)
全く知らないやつらに、体を触られるのも嫌なのに洗われるなんて、まっぴら御免だ。
そう思っても今のキッセは、まな板の上の魚みたいに抵抗する力は微塵もなかった。キッセはペルに言われるがまま、使い古された盥の中に大人しく座った。
ペルは湯気が立ち昇る湯釜から、手桶で湯をすくうと大きめの桶にいれた。そこにビィビが水を足し、手でかき混ぜながら、桶の中でちょうど良い湯加減にした。
「いい?」と、ペルはキッセの顔を覗き込んだ。
「少し沁みると思うけど、我慢してね。――それとキッセ、絶対に目を開けてはダメよ!」
キッセは黙ってうなずき、目をつむった。
ペルはキッセが目を閉じたのを確認すると
「絶対に目を開けないのよ!」
しつこく言ってから、優しく湯を掛けはじめた。