弐ノ二
ペルはルーシが汲んできた水を桶から茶碗で掬うと、キッセの口元にそっと寄せた。
水がキッセの干乾びた喉と体に染みわたる。水がこんなに甘くて美味しく感じるなんて思いもしなかった。
キッセはむせながらも、水を一気に飲み干そうとしたらペルが止めた。
「いっぺんに飲んではダメ……。そう、そうよ。ゆっくり……」
ペルは少しずつ、キッセの口に水を運んだ。
「水はたくさんあるから平気よ。急いで飲むとお腹が驚いて、吐きだしてしまうから」
ペルはキッセに水を飲ませ終えると、また縁台の上にキッセを寝かせた。
側にいたルーシに何やら頼みごとすると一旦、石造りの家に戻り、木の盆に何かを乗せて戻ってきた。
ペルはキッセの隣に座り、キッセの上半身をゆっくりと起き上らせた。
「食べられるかしら?」
ペルは、盆にのせた椀を手に取り、匙で掬ってキッセの口元にそっとよせた。
匙の上には赤くドロリとした物がのっていて、甘く爽やかな香りがする。
キッセが口を開けるのを拒んでいると、ペルはくすりと笑い
「大丈夫。毒なんか入っていないわよ」
優しく言うと、自らパクリと一口食べて見せた。
そしてもう一度、匙で掬ってキッセの口元に近づけた。
(いい匂い……)
その爽やかな香りに釣られ、キッセは薄らと口を開けると、ペルは手慣れた手つきで、匙をキッセの口の中にするりと滑り込ませた。
甘酸っぱい甘味が、キッセの口いっぱいに溢れた。ゴクリと飲み込むと食道を通り、腹に到達すると、空っぽの腹は貪るように食いつくし、一気に甘さが体の隅々にまで沁み渡るように広がった。
「美味しいでしょ。ズーアという果実をね、糖蜜水で煮てつぶした物……」
ペルの話をそっちのけで、キッセはペルからズーアが入った椀を奪うと、無我夢中に平らげた。
その姿に、ペルは目を丸くして呆気にとられながら
「その食べっぷりなら、大丈夫そうね」と、クスクスと笑った。
ペルはキッセの額に手をあてた。
「まだ熱が少しあるのに、こんな所に寝かせてごめんなさい。――キッセ、あなた立ち上がれる?」
水で喉が潤いズーアの糖蜜煮を食べたので幾分、体が楽にはなったが気持ち程度だった。
「あなた、ムミが酷くて…… このままじゃ部屋に入れられないの……」