第7話 龍俊、滞在する。
龍俊は、しばらくルーベルラルクの屋敷に滞在することになった。
客人待遇になり、あれから拷問されることはなくなった。
メルファスは胸を撫で下ろした。
(こんなところでコイツに死なれたら、わたし本当に領主の愛人して生きていくしかなくなっちゃうところだったわ。それにしても、わたしって、本当に美人)
メルファスが鏡を見ていると、龍俊はジト目になった。
「メルたん。自意識過剰もほどほどにするっす。フッ。所詮はオナニスト……。するときは、手を清潔にすることをオススメするっす」
オジサンはさりげないセクハラが得意なのだ。
メルファスは恥ずかしさで頭の中が爆発しそうになった。
「このデブっ。ころす。絶対に殺す……」
すると、エルンが入ってきた。
2人の様子を見て、ため息をついた。
今日のエルンは、装いが違った。
猫ミミに、メイドのような服。それに猫のような尻尾もつけている。
エルンは右手を軽く握ると、えくぼの横の辺りでスナップを効かせて……招き猫のようにして言った。
「お父さまの命なので仕方なくするのですわ。……その、あの。ご主人たま。おはようにゃん♡」
龍俊は飛び跳ねた。
そのまま両手を天頂で合わせてクルクルと回る。
「うっひょー!! ねこみみ娘きたぁっ!! 最高っす。エルンたん、顔は、あまり好みじゃないけど、猫ミミならそんなの関係ないっす!!」
エルンは歯ぎしりをした。
(なに、こいつ。お父さまの命令で下手に出ていれば言いたい放題。なんで、こんなデブに好みの選別されないといけないのかしら!!)
ちなみに、エルンの名誉のために言っておくと、彼女は金髪碧眼で相当な美貌だ。その容姿と家格が相まって、次の王妃候補とも言われている。
龍俊は真顔になるとメガネを上げた。
「ところで、この国には、お風呂というものはないっすか?」
「……おふろ? 蒸し風呂はあるけれど、身分の高い者しか使えないわ。庶民は濡れタオルで身体を拭くのがせいぜい……」
「うひょっ。エルンたん、何も分かってないっす。普段清潔な爽やか女子が、たまにのトラブルで濡れタオルになるからいいっすよ」
龍俊は左右に行ったり来たりして、寸劇を始めた。
右側でダンディな顔になる。
「……、今夜はホテルをとってあるんだ」
今度は左側にいき、目をウルウルさせた。
「今日は、身体を拭いただけだから」
「いいじゃないか。それでも」
「……ああっ、はずかしいっ!!」
龍俊はこっちをむいて両手を広げた。
「……、こういうのがいいっすよ!!」
龍俊は微妙に腰を振って悦に入っている。
と、いうか、すごく息切れしている。下手するとこのまま死んでしまいそうだ。
メルファスは、自分の行く末に不安を感じた。
(こいつ……、本当に大丈夫かしら。ダイエットさせないと、いつ突然死してもおかしくないわ)
エルンは露骨に不機嫌そうな顔をした。
「……それで、貴方は何を言いたいのかしら?」