第5話 おじさん、踊りだす。
龍俊は、再び侯爵と謁見することになった。
龍俊が部屋に入ると、シオン侯爵は、配下から報告を受けているところだった。
「はい。シオン様。東からの流行病が、ここルーデンスの街まで入ってきております。また、尿が出ずに死ぬ者が後を絶ちません。こちらは、呪いの類かと。このままでは……」
その様子を黙って聞いていた龍俊は言った。
「シオン殿。ここでは奇病が流行っているっすか?」
「奇病? 東国からの流行病は蔓延しているが」
「……それは、女性はおりものが増え異臭がしたり、男性は局部に痒みや腫れがでるのではござらんか?」
「あぁ。そうだ。下の病だな。みな、対処療法で対応しておる。そもそも、身分や低い者がなる病だからな……」
龍俊はエルンを見た。
「それは、……淋病という性病でござる。この環境では、自然に治ることは、まずないでござる」
「性病? どちらにせよ、卑しい身分の者がなるものだからな。民草など、また勝手に増える。放置しても問題あるまい」
「それがそうでもないっす。この病気。チ◯コが痛いだけでは済まないっす!! この地域では、失明したり、尿が出なくて亡くなる者。高熱や息苦しさを訴えて亡くなる者がいるのではないっすか?」
「あぁ。そのとおりだ。だが、そちらは、呪いの類で、性病とやらとは無関係であろう。得体の知れぬ呪いで死ぬ者が多くてな。民草が混乱し、作物の収穫にも影響が出ておる。どうしたものか」
「それは、パンツがないからっす!! シオン殿には……」
「侯爵閣下に無礼であるぞっ!!」
侍従は剣の柄に手をかけたが、シオンは制止した。
龍俊は、メルファスのパンツを掲げた。
「これ、これっす。これを生産すれば、みんなハッピーっす!!」
「は? はははっ。お主は、よっぽどの命知らずと見える。その布切れで、どう呪いを解くというのだ」
「なっちゃった人はパンツではダメっす。拙者が言う草花と木の実を集めてくるっす。拙者の死刑は、その後でも遅くないっす」
シオン侯爵は、侍従を呼びつけた。
「そこの者は死ぬ前の悪あがきをしておる。このまま殺して祟られてはたまらん。最後にコヤツのいう草や木の実を集めてやれ」
龍俊は、いくつかの植物の特徴と、生息地を指示した。
「山梔子と黄芩、芍薬……サンシンはクチナシの実で……」
不安そうにその様子を見ていたメルファスは、龍俊に耳打ちした。
「アンタ。ほんとに大丈夫なんでしょーね!! もし効果がなかったら、わたしまで巻き添えで殺されちゃうじゃない!!」
「問題ないっす。これは五淋散という立派な薬っす。ペニシリンがないから、生薬に頼るしかないっす」
「アンタ、あたまは大丈夫? ヲタオヤジがそんなもん知ってる訳ないじゃないっ!! 恐怖で脳内スーパードクターになっちゃってるんじゃないの?」
「拙者を信じるでござる。もし、万が一の場合には、メルたんだけでも侯爵の性玩具として生きられるようにクロージングしてやるっす」
それから数時間後、龍俊が指示した材料が集められた。
そして、局部の痒みと尿が出にくくなったという患者が屋敷の敷地の外に呼ばれた。
そこにはテントが設営されていて、何段か置かれた台の上に設置された椅子に侯爵らが座っていた。
シオン侯爵は薄ら笑いを浮かべ、言った。
「そなたの言う通り材料を集めてやったぞ。こんな雑草の類で、効果などあるものか。効かなかったら、……どうなるか覚悟はできてるだろうな?」