第4話 おじさん、少女に再会する。
2人は東に向かってひたすら歩いていた。
時々、龍俊は立ち止まって岩に腰をかけたり、木や草をいじったりしていた。
メルファスはその様子を見て、ため息をついた。
「何やってるのよ。はやく行きましょう」
龍俊はメガネをあげた。
「無理でござる。拙者、アラフィフのメタボ故、ただ歩くだけでも苦行なのでござる」
メルファスは深いため息をついた。
(歩くだけで疲れてるとか、一般人以下じゃない……。魔王討伐とか絶対無理でしょ)
すると、遠くから砂埃が上がってきた。
目の前に馬車が止まり、少女が降りてきた。
少女の名は、エルン・フォン・ルーベルラルク。
先ほど、龍俊に救われた少女だ。
少女は言った。
「あんな屈辱をうけて、もう、わたくしは恥ずかしくて、外を歩けません」
龍俊はメガネを上げていった。
「はて。拙者が何かしたとでも?」
エルンは真っ赤になっていった。
龍俊を指さした。
「わ、わ、わたしの大切なところを舐め回すように見て、匂いまで嗅いだじゃないっ!!」
「正直、見たくもないもの見せられたでござる。こっちが損害賠償請求したいくらいでござる」
「ルーベルラルク侯爵家の娘として、も、もう。あなたと結婚するしかないのです。あんな屈辱。それしか、帳消しにできる方法はないのです!!」
「嫁? 拙者の嫁は2次元だけで十分っす。そんなに結婚したいなら、パンツを履くことっす。話はそれからっす!!」
「ぱ、パンツ。それはなんですか?」
龍俊は両手を開くようにあげた。
「もうお手上げっす。これ。これのことっす」
龍俊はメルファスのパンツを広げて見せた。
メルファスが「ちょっと」と声を上げた時には遅かった。メルファスのパンツは、皆の晒し者になってしまった。
龍俊は言った。
「それよりも、きみっ。人を指さすのはやめた方がいいっすよ? 普通に失礼っす」
「あ、ご。ごめんなさい……って、あんたにだけは言われたくないわっ!!」
エルンは、そうはいいつつも指を下げた。
「と、とにかく。パンツについて説明を聞きたいわ。当家の屋敷まで来なさい」
龍俊は、ルーベルラルク家の屋敷に招かれることになった。
道すがら、龍俊はルーベルラルク領について色々と聞いた。
産業や政治体制。衛生環境、文化風俗。その話題は多岐に渡った。
メルファスは言った。
「あんた、そんな難しい話きいて、理解できるわけ?」
龍俊はメガネをあげた。
「ほとんど理解不能っす。外国語を聞いてる気分っす。まぁ、それを理解するのが、あなたの役目っす。メルたん秘書。ところで、この世界にはスマホはないっすか?」
「そんなのある訳ないじゃない。なんなの? あんたバカなの?」
「チッ。ほんと使えないっすね。スマホがなかったら、今日更新の『魔法少女ララカル』がみれないっすよ!!」
「あんた、そんなアニヲタしてる余裕ないよ。わたしら明日の生活もどうなるか分からないんだから」
龍俊はメルファスをジト目でみた。
「いざとなったら、身体で稼ぐっす。それも秘書の役目っす」
エルンは、その様子を面白くなさそうにみている。
「あなた達、屋敷についたわよ」
馬車を降りると、想像を絶する豪邸だった。
部屋は20はあるのではないか。
入口には守衛がいる。
屋敷に着くと、龍俊はさっそく呼び出された。
謁見の間で、龍俊は跪かされる。
「わたしは、当家の当主。シオン・フォン・ルーベルラルクである」
声の主は、40代後半と思われる男性だった。質の良さそうなベストをきて、白いシャツの首元にはフリフリ(シャボ)をつけている。
眼光は鋭い。
ただの放蕩貴族ではないことは、その空気感から明らかだった。
「拙者、山梨 龍俊 51歳でござるっ」
シオンは頭を抱えた。
「51? わたしより年上ではないか……。こんな爺さんが、我が高貴なる娘を辱めたとは。許せぬ。許せぬぞっ」
「うっひよっ。安心するでござるっ。娘殿のような汚股の姫君には、拙者、興味はないっす」
侯爵はテーブルの上のグラスを床に投げ、激昂した。
「侯爵令嬢になんたる言い草。さては、そなた、貴族制に異を唱える異教徒の手先であろう。許さぬぞ。おい、その者を地下牢に連れて行け。首謀者を吐かなければ、殺しても構わぬ」
龍俊は、衛兵に取り押さえられ、地下室に連れて行かれた。地下室の壁には鎖や数々の拷問器具が掛けられている。
ジメジメしていて暗い。
ネズミの鳴き声が、至る所から聞こえてくる。
それは、およそ人間を苦しめるためだけに存在する空間のようだった。
龍俊はその一室で拘束されていた。
「ひひひ……」
異端審問官(拷問官)が、鞭を片手に龍俊に近づいてきた。
龍俊は数時間に渡り拷問を受けた。
歯は数本抜かれ、爪も何枚か剥がされている。
拷問官は言った。
「そろそろ吐いたらどう? お嬢様に近づいたのは、異教徒の悪しき企みなのだろう? 言っちゃいなさいよ」
龍俊は、真面目な顔になった。
「拙者、この程度の拷問には慣れているっす。肉体の痛みなど、皆に笑われながら蹴られるより、ずっとマシっす。拙者はただのオタク。異教徒などとは、一切、関係がないでござる」
誰かが、石廊下を走る音が響き渡った。
それは衛兵だった。
「侯爵閣下が、お前から話を聞きたいと言っている」