第31話 お風呂の覗き穴。
綿が育つまでの間、龍俊達はギルドクエストで食い繋ぎながら、その日暮らしの日々を送っていた。
そんなある日、露天風呂が完成し、ルーベルラルク侯爵からお披露目会に招待された。
龍俊の進言で男女別にしたため、メルファスたち3人は女湯にいる。龍俊は男湯……。
……いや、実は、龍俊とルーベルラルク侯爵は、秘密の覗き部屋にいるのだ。
穴に目を擦り付けながら、龍俊は下品な笑みを浮かべている。
目の前では、侯爵邸の新人メイドが身体を洗っていた。
「この見上げるアングル。たまらないっす!! うら若き乙女が、無防備にお尻を向けてくれるっす」
侯爵も鼻の下をのばしている。
「覗き穴の位置は、下の方が良いと言っていたが本当だな。それにしてもあのメイド、たまらない身体をしておる。第二夫人として娶るか。……こんなところで妻候補を発見することになるとはな」
「そうっす!! 侯爵も男のロマンが分かってきたっす!! 全部丸見え。最高のスポットっす」
侯爵は生唾を飲み込んだ。
「そういえば、龍俊殿が連れている3人娘は、とりわけ極上だからのぅ。特に巨乳の銀髪娘。楽しみでたまらん。早く入ってこんかな」
龍俊は、胸の辺りを押さえると眉を吊り上げた。いつもより少し早口だ。
「……侯爵殿。拙者、エルンたんの裸体もみたいでござるが、いいでござるか?」
侯爵は眉をひそめた。
「ならん!! それはダメだっ」
「エルンたん、なんか体臭を気にしてるみたいから、きっと、股を開いてよく見せてくれるっす。見えてはいけないものも見えるかも知れないっす〜」
龍俊は微妙に腰を振っている。
「ならん!! 絶対に許さぬぞ」
「拙者の連れのことは見るのに、不平等でござるっ!!」
そうこう言ってるうちに、エルンが覗き穴の目の前に座った。
侯爵は激しく動揺した。
「な、なんでエルンがっ!! ここには来るなと、あれほど釘を刺しておいたのに」
エルンは2人が覗いているとは夢にも思わず、真っ白な胸を露わにして、両手を使って泡立てている。やがて、上半身は洗い終わり、洗いは下半身へと移った。
エルンが足を開くと。
突然、龍俊の視界が真っ暗になった。
「覗き穴が真っ暗になったっす!! 侯爵殿もちょっと見てみるでござる」
「どれ……」
侯爵がのぞきこむと、覗き穴の向こうから、エメラルドグリーンの瞳が、不気味にこちらを覗き込んでいた。
「ひゃあああ」
侯爵が尻餅をつくと、壁の向こうからも絶叫が聞こえた。
「きゃあああああ!! 壁の穴から誰か覗き込んでいるっ!!」
それはエルンの声だった。
絶叫はつづき、まくしたてるように何か言っている。
「絶対に龍俊だ!! それに、……お父様?? お父さまだぁ」
絶叫は号泣に変わった。
そして、今度は覗き穴の向こうから、青い目が覗き込んできた。
「明らかに龍俊じゃん。……コロス!!」
メルファスの声だった。
龍俊は、ルーベルラルク侯爵の肩をポンポンと叩いた。
「侯爵殿。もはや拙者達は終わったでござる。もう今更どうしようもないでござるが、少しでも怒りを鎮めるために、この覗き部屋は、今日で閉店にするっす……」
侯爵は不安そうに言った。
「私たちはどうすれば……」
龍俊はピースをした。
「やつらは全裸っす。すなわち、すぐには追ってこれない。拙者達は、優雅にこの場を立ち去ればいいっす。そして、しらを切り通すっす。生き残るにはこれしかないっす」
侯爵は額の汗を拭った。
「しらを切るもなにも、現行犯で見つかっているのだが……」
「それでもっす。どんなに言い逃れできない状況でも、しらを切り通すっす」
「素直に謝った方が良いのではないか?」
龍俊は真顔になった。
「テレビを見てみろっす。中途半端に謝ったヤツの方がダメージを受けているっす。最後まで図々しく、しらを切り通したヤツの方がダメージは少ないものっす。人間は、弱みを見せた相手を本能的に追い詰める姑息な生き物っす!!」
「テレビとは? それに、姑息なのは、この期に及んで責任逃れをしようとしている私たちの方だと思うのだが……」
「姑息なのは、あんな美尻をしているあいつらの方っす!! とりあえず、また生きて再会できることを願っているっす。アディオス」
そういうと、龍俊は、優雅に歩いて去っていった。
女湯では、追いかけるのを諦めた3人の女子トークが続いていた。
メルファスは、身体を洗いながら頬を膨らませた。
「ほんと、アイツ。信じられない。侯爵はきっと巻き込まれたのよ。全部、龍俊が悪いっ!!」
彩葉は答えた。
「別に、見たければいつでも普通に見せるのに、なぜわざわざ穴から覗くのか理解不能……」
メルファスはつっこむ。
「普通に見せちゃダメだから!! シルシルもそう思わない?」
シルシルは口を尖らせた。
「うち、別にかまへんよ。一緒に寝てたら、そういうことも、まぁ、あるかもしれへんし」
「あんたたち、2人とも、アイツに寛容すぎっ」
「そういうメルファスは?」
メルファスは眉を吊り上げて、腕を組んだ。
「当然、NOよっ」
シルシルは首を傾げた。
「せやけど、森で幻影見せられた時やけど、霧の中から出てきたんが、銀髪でな。顔は見えへんかったけど、背格好とかメルファスにそっくりやったんやで」
「ぐ、偶然でしょ……」
「それって、うちにはよー分からへんけど、どっちかがどっちかの想い人ってことやん?」
彩葉はメルファスの目を覗き込んだ。
「……ほんとうに偶然? ぬけがけは許さない」
メルファスは身振り手振りで反論した。
「偶然よ!! この高貴なわたしが、あんなのと知り合いな訳ないじゃない」
彩葉の瞳に文字の羅列が映し出される。
「システムのわたしの目には偽りは通じない。メルファスの本心を解析してもいいか?」
「女神の心を解析なんて、ダメなのっ!! バチあたりよっ!!」
そういうと、メルファスは、逃げるように、ざぶんと風呂に飛び込んだ。そして顔の半分までお湯につかると、ブツブツと何か言ったのだった。




