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第3話 おじさん下着を作りたい。


 銀髪碧眼の少女は、龍俊の前で立ち止まった。

 息切れしている。


 龍俊は言った。


 「あんた、誰っすか?」


 龍俊は物忘れがひどかった。

 特に固有名詞が思い出せない。


 「ちょっと、女神のこと忘れるなんてあり得ない。メルファスです!! 二度と忘れないで!! あんたのせいで地上落ち……」


 「わたしを忘れないでって。メルちゃんさっきの女神たんっすね? ついて来たってことは、拙者にホの字っすか? これ、返せばいいっすか?」


 「あんた、ほんとウザっ。と、とりあえず、それ返して……」


 「いやっす。うひょっ。これは拙者の心の清涼剤。これからも、たまに嗅いで癒されるっす。ところで、メルたんは帰る方法あるっすか?」


 「あっ……」


 メルファスはパンツ回収に必死で、帰り道のことは頭になかった。


 龍俊はメガネをあげた。

 メガネのフレームがキラリと光る。


 「女神たんは、特技とかあるっすか?」


 「いや、神力は地上では使えないの……」


 「使えないってのは、使いたくないっすか? 使うことができないっすか? 言葉遣いは正確にっす!!……まぁ、そんなこともできないとは、どちらにせよ可愛いだけの役立たずっすね」


 オジサンは些細なことで相手を落としてマウントをとるのが得意だ。年の功だろう。


 メルファスは、女神だ。

 戦闘に特化した肉体は持たない。


 ここは魔獣が跋扈する厳しい世界だ。

 彼女が1人で生き抜く術はない。 

 

 スキルには第一階梯から第六階梯までのランクがある。そして、神が直接授ける第七階梯。


 龍俊は第七階梯スキルを4つも持つ規格外の人間。カテゴライズだけなら、人類最強といっても過言ではない。


 (悔しいけど、わたしが生き残るには、こいつに寄生するしかない……)


 仕方ない。

 これは仕方ないことなのだ。


 それに、この世界での彼女は仮の肉体だ。

 彼女の身体を辱めたところで、その魂を縛り付けることはできない。


 「わ、わかった……。わたしの身体を自由にして……いいわ。そのかわり守って」


 龍俊はメガネを上げた。


 「何、言ってるっすか? ノーパンのメルたんに何の価値もないっす。来たいなら、勝手に付いてきたらいいっす」


 メルファスは舌打ちした。

 

 「このクソでぶ……」


 「何か言ったっすか?」


 「それで、どこに行くのよ」


 「街っす!! パンツ作ってもらうっす」


 「あんた、召喚の目的忘れてない?……ってか、わたしが伝え忘れてたわ」


 龍俊は面倒くさそうに答えた。


 「どうせ、魔王を倒せとかそんなのっすよね? 色んな作品で手を変え品を変えしてるっすけど、そこは変わらないっす」 

 

 龍俊は眉一つ動かさずに続けた。


 「まぁ、良い人なのに追放された系とかもあるっすけど、現実を見るっす。世間で追放される人はそれなりの理由があるものっす。その証拠に、拙者、前世では、各段階で既に追放される人コンプリートっす。そして、……拙者は女になってない。悪役令嬢じゃないなら、あとは、魔王討伐くらいしかないっす」


 「あんた。無駄に理解が早いわね」


 「面倒だから、魔王なんぞ係わり合いたくないっす。第一、メリットがないっす」


 「そんなことないわ。魔王を討伐すれば、きっと金銀財宝酒池肉林……」


 メルファスは思った。

 (それに現状、魔王討伐がわたしが戻る唯一の可能性……)


 龍俊は、相手を挑発するかように、鼻の穴を膨らませて言った。


 「拙者、下戸っす。3D女子はコスプレかパンツにしか興味ないっす。ちなみに、魔王は女子だったりするっすか?」


 「男ね。残念だけど」


 「まじ用はないっす」


 「ちょっと、あんた何のためにここに来たのかわかってる?!」


 「決まってるっす。金持ちになって、前世でやり残した変態プレイをカンストするためっす。まぁ、とりあえず、街っすよ。メルたん、街はどこっすか?」


 「そんなの。しらないわよ」   


 メルファスは、数合わせで適当に人選してしまったことを本気で後悔した。


 「ほんと役立たずっすね」


 龍俊は鼻をクンクンした。


 システム:「第七階梯スキル超クンクンを発動します。使用者は、3000キロまでの匂いを高い精度で感知できます」


 龍俊はメガネを上げた。


 「東の方角に女子の匂いがするっす。15から25歳までの女子が5000人ほど。うっひょー。このスキル最高っす」


 龍俊は、メルたんの方を見た。

 その場でクンクンしている。


 「ま、メルたん。女神とか言ってカッコつけても、匂いはただの年頃の女子っすね。ところで、この匂い。毎晩1人でしてるっすか? 欲求不満っすか?」


 メルファスは顔を真っ赤にした。


 「そ、そそ、そんなこと……あるけど。それ以上、詳しく聞いたら殺すからっ」


 ……嘘をつけない。

 それは女神の悲しい性だった。

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