第1話 異世界へようこそ。
彼は、瀬名 龍俊。
50過ぎのおじさんだ。
彼は職を転々とし、いまは地方都市で会社員として働いている。
結婚?
とうに諦めたようだ。
そんな彼の楽しみは、趣味に没頭することだった。
アニメ、風俗、地下アイドル、猫ミミ、メイドカフェ、赤ちゃんプレイ、セクハラプレイ、汗フェチ、匂いフェチ、諸々。
「変態っ」と言われるものは、ほぼ網羅している。ただ、彼にも拘りはある。
彼はメガネを直して答えた。
「拙者、変質と犯罪には手は出していないっす。美少女は好きだけど、ちゃんと18歳以上。それ以下は妄想だけでヘビロテっす」
そんな彼は、ある日の早朝、ヒートショックで死んだ。
目を開けると、そこはどこかの神殿だった。
目の前にはお決まりの美少女。
銀髪に碧眼。
およそ、この世の美を凝縮させたような容姿だ。
龍俊はすぐに自らの状況を把握した。
(あれは、女神っす!! 転生したら女神に会うって決まってるっす)
美少女が口を開こうとすると、龍俊が先に口を開いた。
「うっひょー。女神っす。女神っす!! いつお風呂入ったっすか? 嗅いでいいっすか!!」
女神の笑顔は引き攣っていたが、すぐにゴミ虫を見下すような目になった。
女神にとって、龍俊はただの数合わせだった。あと1人で今年の転生ノルマが終わるのだ。
なんでもいいんで、とっとと異世界にぶち込みたかった。
「え、えと。龍俊よ。汝に転生のチャンスを……」
龍俊はハイテンションで答えた。
「うひょーっ。転生なんて勘弁っす。美少年、イケメンになったら、ゴミ虫を見るような目で見てもらえないっすー!!」
「お、おぅ……」
「この腹、この薄毛、この脂ギッシュ、三種の神器が揃ってはじめて、見下してもらえるっす。拙者、転移を希望っす」
女神はとっとと仕事を終わらせたい。
「話が早くて助かります。まぁ、わたしが転生課に配属されてからの15年。転移を希望したのは、あなたが初めてです。って、話を聞きなさいっ!!」
龍俊は、天界から地上の露天風呂が見えることに気づいたのだ。もはや説明などどうでも良かった。
「さっさと拙者を、あの風呂に送り込むっす!!」
女神は慌ただしくマニュアルをめくる。
「あ、あの。とにかくっ。……あぁ。今月は決算期で何人も送り込んだから、残りカスみたいなスキルしかないわね。あなたには特別に3つの第七階梯スキルを与えるので選びなさい。第七階梯スキルは、神が選ばれた者にのみ授けるスキル。一般人は第一階梯スキルを1つもってるかどうかなのですよ。世界最強になるもよし。あと、欲しいアイテムを一つ与えましょう」
女神は続けた。
「あっ。女神が欲しいはナシでお願いします。最近、妙に多いんですよね。女神を希望する愚か者が……」
ぽちぽちぽち。
龍俊は秒でスキルを決めた。
龍俊のスキルは「超回復(絶倫機能付き)」、「超嗅覚」、「超視覚」だった。
女神は言った。
「……本当にそのスキルでいいのですか?」
「拙者、最近、アッチの元気ないし、いつも鼻が詰まってるし、小さい字が見えづらいっす。だから、願ったり叶ったりっす」
「そうか。それならそれでよいが……」
龍俊は乙女のように首を傾げた。
「ところで、スキルの後についているカッコ書きはなんでござるか?」
カッコのことなど女神は知らなかった。
(ちょっとぉ。あの動き、キモいんですけれど? それにしても、この男、老眼で目がかすんでいるのね。こんなのを選ぶなんて、きっとスキル名が二重に見えているよ。こんな男に魔王なんて倒せるはずが……)
女神は、龍俊の相手が面倒になってきたらしい。身体を揺すりはじめた。
(それにしても、この男、ゴミの中でも特に取るに足らないスキルを選んだわ。どれもわたしの着任以来、ずっと残っていたスキル。スキルを見る目もないのね……)
「はいはい。そのスキルね。最終確認だけど、ほんとにそんなゴミみたいなスキルでいいの? 可哀想だからもう1つ、おまけでつけてあげるわ」
「いいっすか? 太いのは太ももだけじゃないっすね!! では、第七階梯スキル:超触覚を選ぶっす」
「……了解。あとは欲しいアイテムね。叫んだら、自動で付与されて異世界に飛ばされるから」
龍俊はここでも即答だった。
「女神さんの履いてるパンツ希望っす。2日洗ってないそれっす!!」
どこからともなく声が聞こえてくる。
「……世界救済システム、勇者の希望を認識しました。女神メルファスのパンツを、龍俊にあたえる……」
女神は叫んだ。
「ち、ちょっとまって……」
すると、龍俊の右手にパンツが現れた。
そして、同時に女神の股間は風通しが良くなった。女神は股間を押さえた。
龍俊はパンツを鼻に当てると、有無を言わさず異世界に飛び降りた。
「んじゃあ、そういうことで!! 女神のくせに、パンツは普通の女子の匂いっす!! ちょっと汗臭いっすね!!」
女神はパンツを奪い返そうとしたが、龍俊はヒラりと避け、それを口にもっていった。
「感想いわないでよ!! それに、ちょっと……!! 舐めないでよっ!! そ、そのパンツ返しなさい!!」
女神は必死で手を伸ばし、そして天界から足を踏み外した。
「きゃああああ……ぁぁぁ」
女神は、地上に落ちていった。
世界救済システム:「勇者の射出、および、女神メルファスの同行を確認。転送先世界No.は判読困難につき、システムによる補正……転送先世界No.は16ではなく15と判断。当システムは、次期担当者の選考に入る……」
こうして、龍俊の異世界生活が始まったのだった。
新連載です。
ゆるーい感じでいきたいです。
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