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プロローグ

「今です市長殿!全て手筈通りに!」

 都市を取り囲む城壁で煌々と篝火が炊かれている。その明かりが宵闇を塗り潰す中、赤い髪を黒いフードに包み隠す男が叫んだ。

「り、了解ですダリオン殿!衛兵!撃て!」

 ダリオンと呼ばれた魔法使い風の男の声に従って、少し頭を薄くした小柄な男が自身の部下に命令する。

 すると城壁各地に設置されたバリスタから人の腕ほどの太さがあるボルトが発射された。


 狙いの先には竜の姿がある。

 このラグオス王国において近年悪名を轟かせる「マグ=ケノス」だ。

 その体は大地にあって壁越しに城内を睥睨できるほど巨大であり、全身がひび割れた泥のような茶褐色の鱗にて覆われている。

 頭部は異様に長く、くぼんだ額には二本の短い角が生えている。その顔は一見間抜けであるようにも見えるが、大きく裂けた口から漏れる低い唸り声は、聞く者の魂を震わせるほどの威圧感を放っていた。

 この竜が恐れられていた理由は、単純にその図体から繰り出される暴力である。

 3年ほど前に何処かよりふらりと現れたこの竜は、牧場を襲っては肉を喰らい、街を襲っては酒を飲み干した。

 竜という存在の神秘性など欠片も感じさせぬ俗物っぷりだが、それで脅威が薄れる事はない。

 しかし、この世に悪の栄えた試しなし。

 ある時、彼はいつものように獲物を探し、シークズという街に狙いを定め、いつものように襲おうとした。

 そしてまさにこの時、邪竜はその暴虐の報いを受ける時が来たのである。


 城壁から放たれた数本のボルトが竜鱗を突き破り、その肉に突き刺さる。

 さしもの巨竜もただでは済まず、痛みに身をよじろうとした。

 だが、それは不可能であった。

 ボルトには、その矢と同じぐらいには太い鎖が結びつけられており、城門の巻き上げ機と連結されたその一部は竜の動きを阻害した。

 無論、これのみで竜の動きを完全に封ずるは不可能であろうが、ここに彼にとって致命的な隙が生まれてしまった。


「今だクレイヴァン!あとは頼むぞ!『転移』!!」

 魔導士は呪文を唱え、傍に控える相棒に呼びかけた。

 呪いの言葉により喚起された力は粒子となりて発光し、そして徐々に収束し、魔法となる。

 その瞬間、男の隣が光に包まれる。

 そして、時同じくして竜の頭上の空間に雷光が煌めき、光が出現した。

 光が収まったその場所には白銀の鎧に身を包み、蒼の髪をたなびかせる騎士の姿があった。


「任されたぞダリオン!私を誰だと思っている!!」

 宙空に放り出されたその騎士は、しかし一切の狼狽をする事もなく、剣を振り上げ、吠える。


「ゆくぞ邪竜!これぞ年貢の納め時!今こそ我が名誉を彩る装飾のその一片となるがいい!!」

「騎士様?」

 空中で騎士が叫んだその言葉に、市長が聞き返す。


「あっ、クソっ!このアマ!最初からこれを狙ってやがったな!!」

「魔道士様?」

 魔法使いが突如現した本性に、これまた市長が聞き返す。


「ふわははははははははははは!!今更気づいたところで後の祭りよダリオン・ユーゴ!!敵将、マグ=ケノスが首、このクレイヴァン・ノルデンがぁ!!討ち取ったりぃいいいいいい!!」

 そしてその女騎士は叫びながら重力に任せて竜の首に向け落下する。

 剣は竜の首を貫き、そして落下の勢いと重量に任せて肉を抉り斬る。

 その瞬間、地鳴りのような咆哮が街を揺るがした。

 巨体が崩れ落ち、土埃が宵闇に舞い上がる。

 人々は戦いの終わりを確信した。



 かくして竜退治の物語は見事大団円を迎えた。

 しかし、この物語はここから始まるのである。


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