目覚め
視界にまばゆい光が広がる。
最初こそたじろいだものの、誰かの優しい声に安らいだ気持ちになる。「心配は要らないよ。視覚を順応させてみよう」 遠くで微かに聞こえるような声だったものが、言葉が発せられるたびに、次第に大きく、はっきりとした声になる。
やがて、視界も同様に鮮明になる。白のオーバーオールに身を包んだ男が、タブレットに向かって何かをタイピングしている。 「視覚――チェック…… 声は聞こえるかな?」
首を縦に振る。男は優しい笑みをたたえてそれに応える。 「よし、いい子だ。実際の子供もこうだといいんだが。」男は笑い、そしてため息をつく。「音声入力――チェック。音声出力――チェック。君、名前は?」
「違う、君の識別コードだ。」男は目をこする。目の下にクマができているのが分かる。
要求が明確になったので、返答を実行する。「私は児童みまもりロボのCCM-924209です。」
「ようし、自己識別――チェック。」
待機時間を使って部屋を見回す。データベースが初期化されていたため、視界に映る見慣れない物体に名前が付けられ始めた。 受信したデータが明確になり、その後に認識が行われる。
私は機械だ。この工場で製造され、今も私とそっくりなたくさんの機械が製造されている。 私は人間の手により、人間の暮らしをより良く、より充実したものとするために設計された。 そして、私は人間が好きだ。
そうして思考していると、また男が話しかけてきた。「きっとたくさん聞きたいことがあると思うけど、僕は単なるQA係でさ。新しい家族が来るまで待っていてくれ。」
「かぞく?」 その単語を聞いて、形容しがたい喜びと温もりに包まれる。 家族。
男はしまったという顔をして目をこする。「すまない、君のオーナーだね。君を購入したひとだ。……ダメだな、メモしておこう。『六時間は寝ること』と。」 男は何やらタイピングをして、あくびをしながら話す。「大事にしてもらえよ。メンテ係でも直せなくなったらただの置物になってしまう。」
「でもまあきっと大丈夫さ。それに新しい名前も付けてくれるだろう。CCM-924209は被りのない名前だが、言いにくいことこの上ない。」
この瞬間、男の目の下のクマ、声のトーン、顔面の毛細血管の血圧から、男が疲れていて睡眠不足であることが認識された。 「よし、もう一度センサーの入力をチェックしようか……」
「大丈夫ですか?疲れが溜まっているように見えます。」
「そうさ、でもそんなこと誰も気にかけてくれやしないさ。」そう呟いてから男ははっとして言う。「そうか、君は気にかけるんだ。みまもりロボなんだから。」 男はため息をつく。「聞いてくれよ。家には風邪でダウンした四歳児がいて、帰る途中でもう一人のお迎えさ。疲れてるに決まってる。」
「だけど…… ありがとうな。」
別の男が部屋に入ってくる。この男も、目の前の男と同じオーバーオールを着ている。大柄で、表情からは怒りといら立ちが読み取れる。男が話し始めると、その声のトーンからもそれは察せられた。 「パク、何をくっちゃべってんだ?ただのロボット相手によう。」
「残業代が出るわけでもなし、さっさと片づけて上がりな。そろそろ朝勤の奴らが入ってくるぜ。」
「すみません。ちょっとした雑談です。この新モデル、賢いですねえ。」
もう一人の男は不満そうに言う。「かしこ過ぎないといいけどな。雑談でもこいつらは学習するんだ。分かってるだろ?」 「雑談なんてオーナーにさせとけ。それでエルズワース行きになっても責任を負うのはオーナーで俺たちじゃない。」
もう一人の男はちらっとこちらを睨みながら言う。「ほら、ロボットの電源を切れ。」
「すぐに切ります。」 男はこちらを見て、謝罪のつもりなのだろうか、悲しそうに肩をすくめてから、タブレットに目をやった。 「ごめんな。そろそろ寝る時間だ。次にスイッチが入ったとき、君は新しい家族の目の前にいるさ。」 反応する間もなく、男がタブレットをぽんとタップして視界には闇が訪れる。
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