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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転校

作者: 大輔華子

初日、月曜日。

「今日から皆さんと一緒にこのクラスの仲間になる大川さんです。」

「大川です。よろしくお願いします。」

大勢の人前で話すことがあまり得意でない私は、教壇の横で、出身地や好きな教科などいくつか先生に質問されて答え、それが自己紹介になりました。

高校二年生の十月、季節外れな父の転勤で、私はS県の県立高校からK県の私立高校へ転校になりました。前の学校での成績は幸い上のほうでしたので、学校か

らの書類の提出と簡単な面接だけですぐに転校が決まりました。新しい学校の勉

強の進み具合は少し心配でしたが、たまたま教科書もほとんど同じでしたのでそ

れだけはほっとしました。


私の席は一番前、真ん中の教壇の前に用意されていました。この学校では、教室の机は長机の二人掛けで、私の右側には髪の長い少し猫背の女子生徒が座っていました。

担任の先生の担当で、さっそく最初の授業が始まりました。ふと見ると、隣の女子生徒は教科書もノートも机の上にありません。忘れてきたのかな、と思い、私は「どうぞ」と言って教科書を二人の間に置くことにしました。

少し眠くなるようなだらだらとした授業でした。気が付くと私の教科書が隣の女子生徒の前にあります。私は不愉快な気持ちを抑えながら、少し自分の方へ教科書を引き寄せようとして手を伸ばしました。

「あ。」私は教科書を見てびっくりしました。開かれているページはボールペンでぐしゃぐしゃに落書きされてあったのです。

(あなた何してるの!)そのまま声になりそうになり、私はぐっとこらえました。

教室はとても静かです。先生の声だけが念仏のように室内の空気に同化していました。

初日から面倒なことをしたくない、その気持ちが私の声を抑えました。

次の授業も隣の女子生徒は教科書を出しませんでした。最初私は一人で自分の教科書を開いていましたが、隣の女子生徒の視線を横からまともに受けて、とうとう観念し、前と同じように教科書を二人の間に置くことにしました。しかし、今度は教科書の端をつかみながら。しばらくして、ある瞬間、わたしは右手に異常を感じ、思わず「きゃっっ」と手を引っ込めました。私の手の甲には赤いマジックで大きな「×」が書かれていました。


休み時間や昼休みに男子生徒や女子生徒がそれぞれ輪になってワイワイキャーキャー騒いでいる姿は、ごく普通の教室でしたが、誰も私の周りには寄ることがなく、1日目の私は最後まで一人っきりでした。



二日目、火曜日。

私は下駄箱で今まで味わったことのない気持ちを経験しました。

この学校では、男子も女子も皆、黄色のスリッパを履いて廊下へ上がるのですが、私のスリッパは上の部分がはさみで細かく切られ、履くことはできませんでした。私は靴下のままズタズタになったスリッパを持って職員室へ直行しました。先生は私に同情しましたが、購買部の売店が開くまでどうしようもないと言われ、ずっと私は靴下のまま教室の椅子に座っていました。恥ずかしくて椅子から立ち上がることもできず、二日目が終わりました。



三日目、水曜日。

午前中は何事も起こりませんでした。午後の授業から、私の鞄は空っぽでした。

教科書も、ノートも、筆入れも、何もありません。捨てられたのです。幾つかあるゴミ箱を探す私が近寄るたび、皆、私の周りから離れました。隣の女子生徒は昨日から自分の教科書を出していましたが、この日も何事もなかったかのように一人で教科書を開いていました。



四日目、木曜日。五日目、金曜日。

私は学校を休みました。ですから、何も起こりませんでした。



六日目、土曜日。

私が学校を休むと、昼頃、担任の先生から家へ電話がありました。電話に出た母は、夏風邪をひいたみたいです、大分良くなっているので来週は登校できると思います、と言って電話を切りました。私は母に何も説明していません。寒気がして頭が痛い、とだけ言って。



七日目、月曜日。

私が登校し姿を見せると、教室がとたんに静かになりました。私は転校生で、誰

とも話していないし、誰にも危害を加えていない。勉強ができないわけではない

し、特に容姿がみすぼらしいわけでもない。だから、これは私自身の問題ではない。「いじめ」の対象を皆が勝手に決めているだけだ。私の鞄は空だし、体操着も捨てられた。もう失うものはない。私はそう思って誰がこういうことをしようと決めたのか、探すことにしました。

私は、いつも女子生徒の中心で人気のある『エイコ』という子に目を付けました。

昼休み、いつものように談笑している女子生徒の輪の中に意を決して進みました。

「エイコさん。ちょっと。」

皆は、目を白黒させ、一部の女子生徒は「キャー」と言いながら輪から離れていきました。

『エイコ』は仰天したような目をして、一目散に教室の後ろへ逃げ出しました。やっぱりそうか。あなたが皆を扇動していたのね。私はその時、横から強い視線を感じて視線のする方に眼を向けました。

私の隣にいた女子生徒が立ち上がって凄い目つきで私を睨んでいる。

座っているときは猫背だったので気が付かなかったけれど、背がかなり高い。そういえば、私が来てから彼女は一度も席を離れていない。他の女子生徒とも話をしない。

しまった。『エイコ』は彼女に操られていただけか。遠隔操作か。張本人は隣にいたあなたか。


しかし私は教室から逃げていく『エイコ』に確かめようと、『エイコ』を追いかけ始めました。

スリッパも脱ぎ捨て、靴下のまま校庭へ出て行き、逃げる『エイコ』。追いかける私。

とうとう私は『エイコ』を校庭の隅で捕まえました。


「勘弁して。」

『エイコ』は声を喉の奥から搾り出しました。

「勘弁して。」

「何がよ。何を勘弁するのよ。」

「お願い。痛い。放して。腕を放して。大川さん。はなこさん。お願い。痛いのよ。」

「何故みんな私から逃げるの?私の鞄の中身はどこへやったの。あなたが張本人?」

「違うの。誤解よ。私は何にも知らない。だから腕を放して。痛い。」

「放すもんですか。答えるまでは。あなたの名前は?」

「浜崎英子・・・・。」

「浜崎さん。全部言わないと、芳賀校長先生に言いつけるわよ。先生とはここへ来る前に校長室で何時間も話したんだから。」

「話す。話すから、腕を放して。」私は後ろ手に捻り上げた英子の腕を放しました。

英子は肘を何度もこすりながら、恨めしい目つきで私を見上げました。


英子の話は私の予想を覆すものでした。

私の隣にいた女子生徒、彼女の名は森本ちづる。父親は覚醒剤所持の現行犯で数回警察に捕まり現在服役中。母親も万引きの常習犯で父親と同じ。両親のいない彼女は現在市内の施設へ預けられているという。

彼女は、これまで何度となく女子生徒や気の弱い男子生徒から喝上げをしていて、剃刀で何人もの顔を傷つけているという。最近職員室では職員の財布が盗まれる盗難事件があり、犯人は捕らえられていない。学校も彼女の仕業だと目星をつけているが、警察沙汰になり学校の名に傷がつく事を嫌い何もしていない。何より父親の所属する暴力団組織、「笠岡会」の報復を恐れている向きがあるという。

火種はそっとしておいて早く卒業させたい、これが学校の本音とするところだ。

犯人は、金目のものを狙うだけではなく、おおよそ金品に値しないものでも嫌がらせで盗む。体育系のトロフィーや盾などは殆ど盗まれてしまうという。クラスの皆も沢山のものを盗まれてる。

彼女は気に入った女子生徒がいると、その子にわざと意地悪をする。一年前、一学年の途中から転校してきた女子生徒のことを彼女はとても気に入って彼女に近

づくすべての者の顔を剃刀でずたずたにしたという。その転校生はこれに耐えかねてつい最近自主退学したらしい。

そうか。私はその子の替わりなんだ。続きなんだ。鞄の中身や体操服がなくなったことや、スリッパが切られていたのも全て「ちづる」の仕業か。クラスの皆が私を避ける訳もわかった。私に近づいてはいけないんだ。そういうことか。


私にはその転校生のように自主退学などする気はない。

そう決心をして、私は英子の手を取って立たせてあげました。

英子の腕はよく見るとかなり華奢でした。夢中だった私は力任せに彼女の腕を捻り上げ、さぞかし痛かったに違いない。私は最後に一言、「ごめんね。」と言いその場を離れました。



八日目、火曜日。

みんなは相変わらず私を無視し続けました。しかし、事情がわかった今、私はそんなに苦痛ではありませんでした。

その日の午後、体育の時間、私は白の私服の上下で参加しました。

教室では事件が起こっていました。

英子の制服が剃刀でずたずたになって、教室に散乱していました。

私のせいだ。英子を追いかけ、話を聞き、最後に手を取ってあげたこと。ちづるはその一部始終を見ていたのかもしれない。

このままで済まされるか、ちづる。ちょっと。私はあなたを許さないよ。



九日目、水曜日。

英子のご両親が学校に来ました。制服をずたずたにされ、体操着で帰宅した彼女を見て、さぞかし驚いたことでしょう。ご両親は担任の先生と二時間位職員室で話をしていました。おかげで先生の授業は自習になりました。

長い話を終え、先生は教室に戻ってきました。ちづるに対してどうするのか。私は少し興味がありました。ところが、先生の言葉は耳を疑うようなものでした。

「皆さん。浜崎さんの制服がいたずらされたことは知っていると思いますが、誰か、目撃した人はいますか?」いる筈がない。ちづる以外は皆体育の授業で教室にいなかったのですから。

「いませんか。今後同じようなことを見かけたら、皆さんすぐに先生に報告するようにしてください。」

たとえ見かけたとして、報告する生徒がいるとあなたは本気で思っているのですか?先生。

先生の話はそこで終わりました。

私が振り返って英子の方を見ている間、英子はずっと俯きっぱなしでした。



十日目、木曜日。

先生に言って手配していた教科書が一式学校に届きました。代金をどうしようかと思っていましたが、お金は要りませんでした。きれいな私の教科書を見て、ちづるは何だか嬉しそうでした。自分が原因だっていうのに犯罪者の心理は全くわからない。

この時ちづるは初めて私に話し掛けてきました。

「きれいだね。」私は、「うん。そうね。」

「きれいだね。」

私は再び、「うん。そうね。」

「きれい過ぎるよ。」

「えっ?」

「きれい過ぎるよ。」

その瞬間、この教科書にまた何かされたらかなわない、という心理が働きました。

そして私、「交換しようか。交換してもいいよ。」と。

ところがちづるは、「きれいな方がおもしろいんだよ。」

(あなた、私の教科書全部捨てたんでしょ?これ以上何をしたいの?)少しキレた。

そして私、「交換するのかしないのかはっきりしたらどう!私はどっちでもいいのよ!」

ちづるなんて怖くない。するとちづるは、「おまえは教科書のこと言ってる。そんなものに興味ないんだよ。ははは、馬鹿だ。本当の馬鹿だ。おまえは。」

「おまえ」だと?何かすごく気に障りましたが、この場はそれ以上相手にしないことにしました。

その日は、何も起こりませんでした。



十一日目、金曜日。

私は前日、英子の鞄にメモをしのばせておきました。

【ちづるに復讐したいでしょ。我慢することないよ。戦おうよ。作戦練るから協力して。放課後学校の外で会おう。伊勢佐木町のB店ファミリーレストランで。あなたに協力する子、連れてきてもいいよ。】

私は英子の決心に賭けました。

駄目ならいい。私と会っていることをちづるが知ってしまった時の恐怖感と、復讐したい気持ちの強さのどっちが勝るか。放課後、私がB店に入ると、それはそれはびっくり仰天しました。

英子が席の真ん中に、そしてその両側には四人と三人、合計八人が座っていました。

あんなことがあっても、英子の人気は凄いんだな、と思いました。

私は、ちづるの毎日の行動情報を彼女達から沢山仕入れました。

彼女は毎週土曜日、繁華街のキャバクラに勤めていて、翌日の朝まで帰らないということ、彼女の施設寮は受付の人に「学校の友人です」と言うとすぐに入れてくれること、彼女は施設寮の中の一番奥の部屋で、ほとんど施設の人が来ないこと、何より決定的なのは、ちづるの部屋の鍵を自主退学した女子生徒が当時持っていて、その合い鍵を英子の仲間の一人が持っていたことでした。

『善は急げ』かどうかわからないけれど、私は、明日、土曜日彼女の部屋を調べよう、と言いました。彼女の盗んだものを示せれば何とかなる。

学校に言っても埒があかないから、警察に直接訴えるしかない。でも警察はただ『怪しい』では動かない。「私の盗まれたものがそこにありました。」「私も。」「私も。」という風に訴えるのだ。

明日の午後決行することが決まりました。



十二日目、土曜日。

決行の日。

授業が終わると、私たちは前日と同じB店で打ち合わせをして、ちづるの施設寮に行きました。

入口で「学校の友人です。」と言って中に入りました。英子は小さくなって一番後ろを歩いています。

リーダーがだらしない。

ちづるの部屋は一番奥の左側。受付で確認しました。しかし奥の左側は「吉田」。右側は「山本」。無い。「森本」が無い。私が「もう一度受付で聞いてきて。」と言うと、B店で英子の左側に座っていた『恵』が「そこに階段があるんじゃない?」と指を差して言いました。

本当だ。まだ続いてる。階段を降りると、びっくりするくらい奥の方へ通路が続いていました。皆でずっと歩いて行くと急に暗くなって壁に突き当たりました。

左を見ると「森本」。ここだ。右には表札がありません。

ほとんど"独房"だ。施設の人が来ない、というのもうっとうしくなくていいけど、それはそれで何かもの悲しい想いがする。こんなところに毎日いたら本当に頭が変になりそう。恵はものすごく積極的になっていました。目がぎらぎらしている。鍵を開け、最初にちづるの部屋に入りました。


大きな部屋。いきなり古びた応接セットが置いてありました。その奥に机と椅子。

左側にタンスがあり、何も余分なものは見当たりません。右には本棚。ざっと数えて五〇冊くらいの本があります。他には何もありません。恵が「もう一部屋ある。」と言いました。壁の端にドアノブがありました。恵はそこを開き中に入り

ました。途端に血相を変えて戻る恵。私が「どうしたの?」と言うと、彼女は「部屋に土がある。花が咲いてる。鳥もいるし。足元でも何か動いてる。」恵、頭おかしくなったか?


部屋に入ってみると、恵の言うとおり、十二畳ほどの部屋の半分くらいが土に覆われていました。そこには草花が沢山植えられています。鳥籠が奥の壁際にずらっと並んでいて、雀やらカラスやら、見たことのない鳥もいます。土の一番手前のところには、ん?ネズミ?いやハムスターだ。十匹や二十匹じゃあない。おびただしい数。気持ちが悪い。私は吐き気がしてきました。花の香りは芳しいけれど、こんなに色んな匂いが混ざるとわけがわからなくなる。私に続いて四人、五

人と女子生徒が次々と部屋に入ってきました。「この土の下が怪しい。」一人は土を踏みながら、鳥籠を揺すります。一人は草花をなぎ倒して土を掘り、一人はキャーキャー言いながら、ハムスターを蹴散らします。ハムスターはパニック状態に陥って列を作って部屋を出ていきます。鳥籠のゲートは開き、鳥たちもギャーギャーちゅんちゅん、部屋から脱出していきます。


彼女らがキャーキャー言っている間、私は、証拠の品を探すことに神経を集中しました。鳥もハムスターも断末魔で逃げ去り動物はいなくなりました。しかし何一つ証拠になりそうなものは見つかりません。恵はまだ土を蹴散らしています。


その時、入口の外で一人の仲間が狂乱したように叫びました。「ちっ、ちづる。

ちづる。ちづるが帰ってきた!」

ええええ?何で?本当に?この部屋に入っていた女子全員が硬直しました。

入り口の部屋へ戻り、私はちづると最初の入口で鉢合わせしました。


私の身長は158センチですが、私の顔はちづるの胸までしかありませんでした。

ちづるは「がああああっ」と叫ぶと私を横に飛ばして一目散に土の部屋へ入って行きました。そのあと中からとキャーキャーと仲間の叫ぶ声が聞こえ、皆が一斉に部屋から出てきました。そのあとのことはよく覚えていません。ともかく走る走る。逃げる逃げる。ひたすら出口へ向かって。私が施設寮を出て、ふと脇を見ると英子が私につながっていました。英子は恐怖に体が震えていました。私は途中で無意識に英子を拾ってきたんだ。英子がいなくなると私はこの学校にこれ以上通い続ける自信がない、これは私の本当の思いでした。


恵は、はあはあ言いながら、「ちくしょう!ちくしょう!」「もう少しで見つけられるところだったのに。」

「何でないんだ。あいつ、どこへ捨てたんだ。どこへ隠したんだ。あの怪物め。」と言っていました。

その時、私は、聞こえるはずのないちづるの叫び声を耳にしたような気がしました。

「うおおおおおお」「がああああああ」

私は、恵に言いました。

「怪物?」「彼女が怪物?」

恵がまた、はき捨てるように口を開きました。

「あの怪物、いつか八つ裂きにしてやる。みんなを苦しめやがって。」

私は再び。「本当に彼女は怪物だったのかどうか、私はわからない。」

(ねえ。わからない?私たちは彼女のたった一つの『城』をめちゃくちゃにしたのよ。)

もう一人の仲間は恵に同調して言う。

「あいつ。みんなで生き埋めにしちゃおうよ。」

(あなた、何を言ってるの?)

私は、何故か悲しくなって、涙が溢れて止まらなくなってきました。

(私たちは彼女のたった一つの『城』をめちゃくちゃにした。彼女は悪い。だけど私たちのやったことは本当にこれでよかったのか。)

(悪い人には何をしてもいいって言うの?)

私は、思わず「生き埋めにしよう」と言った仲間の首根っこを捕まえて、「あんた。まだそんなこと言ってるの?!!目を覚まして!私たちが本当の怪物だったっていうのよ!」

恵は目を開ききって唖然としています。そして大きな声で私に怒鳴りました。

「復讐しようって言ったのはあんたのほうだろうに!」

英子は大声をあげて泣いています。

私たちは一体何のためにこんなことをしたのだろう。



十三日目、月曜日。

今日、私の横は空席でした。

いつもの通り、退屈な授業が進みます。

でも、新しい先生は少し教育熱心で、生徒に答えを求めて順番に当てていきます。

そんなことは、前の学校では当たり前だったのに。

先生は私を当てる。わたしはちゃんと答える。先生は満足そうです。

(先生の満足ってこういうことかしら。)

その隣。彼女はいません。

先生は彼女の席を飛ばしてその隣の子を当てます。

最初からその席には人がいなかったように、ごく自然に。

次に当てられた子が宿題の解答をします。

先生はまた満足そうです。


放課後、英子が私のところへにこにこしながら来ました。

英子は、

「ねえ。華ちゃん。みんなあなたをすっごく尊敬してる。勉強できるし、なんかかっこいいし。」

続けて、

「でも、今度はみんな。。。」

私は、「ん?何?」

英子、「今度はみんな、あなたを怖がっているの。ねえ。私、どうしたらいい?」


 (『転校』平成22年1月)

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