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8.城壁外の街

 翌日、私の足はすっかり完治していた。

 途中でお婆様に毒キノコを食べたのかと聞かれたけれどそんな記憶はない。けれど、アーツェが取ってきてくれたキノコの中に混ざっていたらしい。


 それも熱を出した一因になったかもしれないと言われて、どう返答して良いか分からなかった。アーツェは平謝りしていたけれど、毒キノコと見破れなかった私にも責任がある。


(食事を必要としないアーチェが取ってきたものをそのまま口にした私が軽率だっただけなのに)


 地面に額をつけたまま謝罪を繰り返すアーツェは衝撃的だった。

 頭を上げて欲しいと言っても聞いてくれなかったので命令第2弾を使わないといけないかと思ったほどだ。


(私のためにキノコや果物を採ってきてくれただけでも嬉しかったのに、ままならないものね)


 今後は私も食べられる食材かどうか見極められるようにならなければと考えながらキッチンのお皿を新たに作り出す。基本的に木で作られているものが多いけれど、陶器のようなものも欲しいらしい。

 そこら辺の土から作り出した食器は陶器とは少し違うけれどお婆様は満足そうだった。


「主様、食器作成はそろそろ終わりそうですか?」


 私とは別に薪割りを頼まれていたアーツェが顔を見せる。


「あと1枚よ。何に使うのか分からないけれど大皿が欲しいらしいの」


 大きめの猪が乗るくらいの大きさと言われたけれど、それは本当に食器なのだろうか。

 丸焼きを乗せるお皿なんて貴族時代でも滅多に使われなかった。


「保存用でしょうか? 大胆なものを求めますね」


「そもそも丸焼きを食べきれるほど人数がいると思えないわ」


 何しろこの家にはハンスとお婆様しか居ないのだ。今は私とアーツェもお世話になっているとは言え、そこまでの量を食べれる人がいない。

 そう考えると、別の何かに使うのかもしれない。


「お婆様は元聖女ですし、薬を作るのに使うのかもしれませんね」


 アーツェも分からなかったのかどんどん形を変えていく土の塊を見ながら呟く。

 魔法を使ったので大皿を作ること自体は簡単だったけれど、原材料が土なだけあって重い。

 私では持ち上げられなかったのでアーツェに持ってもらった。


「頼まれていたものが完成しました」


 キッチンに向かう途中でお婆様に会った為、完成品を見せる。

 スープ皿4枚、ステーキ皿8枚、お鍋が1つ、不思議な形のスプーンが5個、コップが8個、大皿が1枚だ。

 私とアーツェの2人でも全て持てなかったので風魔法も使っている。


「いい出来さね。私はそういう魔法が苦手だから助かるよ」


 キッチンに持っていくとお婆様が収納場所を示していく。かなりの量があったと思ったのに綺麗に仕舞われていく様は気持ちよかった。


「ほれ、これが依頼費だ。あんまり多くはないけど街で遊ぶ分くらいにはなるだろ」


「そんな、頂けませんわ。お礼の気持ちを込めて作っただけです」


 貴重な治癒魔法を使ってもらったのだ。猪肉程度では足りない。

 今回作った食器も素人が作ったものなので簡素なものだ。


「良いんだよ。私の治癒魔法なんてあんたの食器作りの魔法と同じようなものさ。気にすることもない。実際、この街では野菜と引き換えに使ったりもするもんだ」


「野菜と引き換えに……」


 とても高価な印象のあった治癒魔法のイメージが崩れていく。

 城壁外に追放されてからまだ数日なのに様々な常識が崩れた気がした。


「お貴族様の特権がある城壁内と此処は違う。常に魔獣や魔物に襲われる危険があるのだから出来ることをするのが当たり前なんだよ」


 からからと笑うお婆様は元聖女と思えないほど清々しく晴れやかだ。この考えが城壁外での常識なのだろう。


(私も近いうちにそうなるのかしら。地位なんて関係なく、万人を平等に)


 今はまだ想像がつかなかったけれど、そうなれば良いと思う自分がいた。


「では、お言葉に甘えて街を散策してみますわ」


 まだ街には出たことがない。城壁外にある街なんて初めてだからとても心が浮き立っていた。


「気を付けるんだよ。城壁内と違って荒っぽい連中が多いからね」


「はい、アーツェは私が守ります」


 自分で守る力を持たないアーツェに手出しはさせないと意気込んでいると、お婆様が面白そうに笑った。


「そりゃいい。是非守ってやんな」


 けらけらとお腹を抱えて笑うお婆様は楽しそうだ。なぜそんなに笑われているのか分からなかったけれど、アーツェも分かっていなさそうだったので安心した。


 そのままお婆様の家を出て少し歩くと民家が増えてくる。


 皆知らない顔の私に注目していたけれど、お婆様のところでお世話になっていることを知っていたのかあまり警戒はされなかった。


「城壁外だけあって醜い心の刺青をされた人もいるわね」


 追放だけでなくこの刺青まで施される人は少ない。けれどこの街にはそんな人まで普通に暮らしていた。


「生活の様子は城壁内と余り変わりませんね」


「……そうなの」


 城壁内に住んでいたけれど市民の様子を此処まで間近で見たことはなかった。なので様子が違うかどうかなんて分からない。

 アーツェもこれだけ綺麗なドールなのだから王侯貴族の屋敷内から出たことがないと思っていたけれど違ったようだ。


(私が物知らずなだけかしらね)


 城壁内に居た時も屋敷を抜け出して遊んでいる人の話はよく聞いた。

 ただ私が興味を持てなくてやっていなかっただけだ。


 少し後悔していると、後ろの方から濃い血の臭いを感じた。


「何かしら。お肉でも売っているの?」


 臭いの元に向かおうとするとアーツェが手で制す。


「恐らく、肉屋ではありません。誰かが襲撃されたのかと」


「襲撃……。襲われたというの? それなら余計に助けに行かなければ」


「危険です」


 引き止めるアーツェを拝み倒して臭いの元に向かう。

 お婆様の言っていた通り出来る人が出来ることをする。それなら私も出来ることをするべきだ。


 そう思っての行動だったけれど目にした光景はあまりに酷く、この街に入って初めて此処が安全な城壁の外であることを実感した。

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