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4.やれば何とかなる

 水源は意外なことにすぐ見つかった。

 やはり城壁の近くだからだろうか。

 城壁の方へ向かう川を発見したのだ。 


 その川に沿って歩いていくと、廃棄された大型動物か中型魔獣の巣があった。出来すぎていると疑ったけれど巣の中は空っぽだ。


「元は浅い洞窟だったのでしょうか? 今夜はここで泊まりましょう」


 魔法で補強した天井の強度を確かめながらアーツェが振り返る。

 洞窟はしばらく此処を拠点としても問題ないくらいの広さがあった。


「そうかもしれないわね。床が土で湿っているから快適とは言い難いけれど、これも固めて……いえ、木を切って敷いた方がまだ寝やすいかしら」


「それなら私が」


 直ぐに動こうとするアーツェを手で止める。

 アーツェはドールなので魔法が使えない。木を切るのは一苦労だろう。


「私がやるからアーツェは薪になりそうな小枝を集めてくれないかしら。乾いているやつが良いわ」


「承知致しました」


 力強く頷きながらもアーツェは着いてくる。

 よく見ると枝を拾っている素振りはあるが、私から離れようとしない。


(ドールに主人と離れられないような制約はないはずよね?)


 絶対に視界から外れないアーツェに首を傾げると、アーツェも首を傾げた。


「どうして着いてくるの?」


 それ程遠くまで行くつもりはない。

 木はそこらじゅうに生えている。それを1本切って洞窟まで運べばいい。


「主様が倒れたら大変ですので」


「…………」


 どうやら靴擦れを起こしている足を心配しているらしい。

 足は一応水で洗ったけれどそれ以上のことができていない。アーツェにとってはそれがとても気になるようだ。


「倒れないから大丈夫よ。貴方は貴方のやることをやって頂戴」


 本当はついてきてくれて嬉しいなんて言えない。

 私はキツめの声音を出してアーツェを傍から追いやった。


「はぁ、どこまでお見通しなんだか……」


 近くの木の根に座り込んで足の様子を確認する。

 足は血が滲み、洞窟で軽く見た時よりも状態が悪くなっていた。


(治癒魔法が使えれば良かったのだけれど……)


 治癒魔法は限られた神官だけしか使えない。いわゆる神の加護とまで言われている術だ。

 一般的な魔法とは系統すら違う。


 再び出血の始まった足を魔法で生み出した水で流し、近くの木に向き合う。


「本当に嫌になるわ」


 木の根元付近に風魔法を叩き込んで余計な枝を裁断する。できた丸太を手頃な厚さにカットすればそれだけで床の完成だ。

 これだけだと直ぐに腐敗してしまうので無属性の物質の状態固定も付与する。


 後は洞窟の前まで運んで丁度良い長さに切れば簡易的な床として使えるだろう。

 帰りがけに見つけた鹿のような動物も狩って空中に浮かせて運ぶ。


 これでも魔法大国の貴族をやっていたのだ。

 魔法の使えないアーツェがやるより断然効率が良い。

 魔力量も侯爵家の人間として相応しい量を誇っている。


(貴族が全員通わないといけない学園でサバイバルをすると言われた時は正気を疑ったけれど、こんなところで役に立つとはね)


 経験は無駄にならないとは良く言ったものだ。

 私はアーツェが近くにいないことを確認してからため息をついた。


 とりあえず鹿の頭を切り落として血抜きをする。

 血の匂いに惹かれて魔物がやってきてはいけないので洞窟の周りに結界も張った。


「これで最低限の環境は整ったのかしら」


 柔らかな布団もなく、満足な食事も薬もない。

 ないないづくしではあるけれど生きていく必要最低限の条件は揃っている。

 余程強い魔獣が来ない限り結界が破られることもないだろう。


「主様、これは一体……」


 呆然と鹿を眺めながらアーツェが取ってきた枝とキノコや果実を置く。

 いくつか土で容器を作っておいたので食材はそこにいれてもらった。

 アーツェには魔法の心得がないので結界には気付かなかったようだ。


「少し野営の経験があったのよ。本当に最低限のものしかないけれど何とかなりそうね」


「最低限というか……かなり綺麗になっているような。洞窟の内装もこのような感じでしたか?」


 落ち着きなく洞窟を見回しながらアーツェが洞窟の壁を押す。


「壁はほとんど何もしていないわ。補強した時のままよ。切った木を床に敷いて、余った木材を床に近いところに積んだだけ。布もなかったから柔らかめの草で布団もどきを編んだけれどないよりはマシ程度ね」


「信じられないくらい快適になってます……。土鍋のようなものまで出来ていますし……。主様は凄腕の冒険者だったりするのでしょうか」


「冒険者なんかじゃないわ。侯爵家の人間として当然のことをしたまでよ」


 別に自慢する程のことではない。

 何故かこういった知識まで貴族の教養に含まれていたのだ。


「貴族に対する認識が覆りそうです」


「私もドールに対する常識が覆っているわ」


 だからお互い様と言う気にはなれないけれど、アーツェには慣れてもらうしかない。

 寝る場所は少しでも快適にしたいし、出来ることなら少し休みたい。

 流石に色々なことがあって疲れてしまった。


「アーツェにも浄化魔法をかけるわ。汚れてしまって汚いもの」


 今まで忘れていたとは言え、アーツェはゴミ捨て場に捨てられていた。よく服が切れていないと思う程度には乱雑に扱われていた。


「ありがとうございます」


 無属性の浄化が終わったアーツェは先程よりも光り輝いていた。


「貴方……なんだか眩しさが増したわね」


 ただでさえ綺麗な金髪だったのに艶めくような色に変化している。肌も少しくすんでいたのか、透き通るように白くなっている。


「そうでしょうか? 薪に火が付いたのでそのせいですね」


「そ、そう……」


 どう見ても輝きが増しているけれど、アーツェにとってはこれが普通らしい。

 本当にドールというものは人の憧れが詰まっている。


 夜ご飯はアーツェが作ってくれると言うのでお願いして、私は少しでも寝やすいように布団の改良に勤しむことにした。

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