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異類の絆、人霊の情  作者: 塩焼 湖畔 
二章 願い願われ
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二話 依頼 -1-


 「オカルト雑誌の記者は当局で保護できましたが。この取材の約一週間後、インタビューされた男性は行方不明となり。先日、工事中の幹線道路上で、変死体となって発見されました」


 いくつかの資料と映像を流したあと剛田が淡々と告げる。


「他にも被害者がいるみたいだね」

 黒州は文字を指でなぞり、資料のページをめくる。


「誘拐まで至らないものも含めて、類似の事件が今年に入ってから数件。誘拐された被害者は全員保護されていますが、死亡事例が発生したのはこれが初めてです。この記録は偶然にもこの連続誘拐事件を追っていた、オカルト雑誌記者が録画したものです。当局が押収しました」


 剛田は顔を伏せる、悔しさや悲しさが声色に滲む。


「ふむ、なんとなく犯人の検討はつくが……」

 黒州はそのまま思案に耽り、いつになく静かになる。


「お力を貸していただけますか?」


 顔をあげた剛田の顔は真剣だった、覚悟すら感じる。


「ああいいよ、私も人が何人も連れ去られているの黙って見ているのも面白くはないし、なによりも剛田君の頼みだ」


「ありがとうございます」


 剛田は深く頭を下げた。


「個人的に気になることもあるしね……」

 

 眼差しは、遠く山の向こうを射貫くようだった。


「では、明日の朝にお迎えにあがりますので」


 顔にいつもの笑顔を灯した剛田は、丁寧に資料を片付ける。真面目な性格の剛田は被害者が出てしまったこと、それまでに自分達が何もできなかったことに苦い思いがあったのだろう。

 それに黒州がいくら特別とはいえ、政府の役人がこんな事務所くんだりにきて頭を下げに来なければならないわけだから、剛田はよくやっているといえる。本人の人柄がそれを感じさせないのも才能だろう。


 そんな剛田を尻目に資料をペラペラとめくりつつ、目的地の周辺情報を検索している人物が一人。


「わかった、では赤也君も準備だ、小旅行だぞ!」


 こちらの怪人もいつもの調子に戻っていた。いつも通り螺子が外れている。剛田の真面目さを少し分けることはできないのだろうか。


「僕も、行くんですか……?」


「当たり前だ、助手だろ?」


 きょとんとした顔で黒州は動きを止める、驚いてるのはこっちである。


「赤也君も連れて行くんですか?資料は見たんですよね。遠回しでしたけど、危険って書いてましたよね?」


「みたけど?」


 黒州はいつも通りという様子だが、剛田は黒州の存在しない正気を疑っている。


「危険かどうかだけの話をするなら私の側が一番安全だろ?」


「……それについては否定はしませんが」


 剛田が丸め込まれそうになってきている。危険だ、どうにかこの危険を回避しないと、さらなる危険に投げ込まれる。


「黒州さん、僕も学業が有りますし……」


「こないだ楽単で固めたし今年からは少し楽ができそうって言ってたじゃないか」


 若干食い気味に反論が飛んでくる、なんでこの人そういうことは、ちゃんと覚えているんだ。螺子と一緒に外しておいてくれ。


「それに一日二日ぐらいだろう、よし。剛田なんか陰陽師の奴らから身代わりになるようなもの借りてこい」


「いや黒州さん、学業は自分でやらないと意味ないでしょうに。それに赤也君の学友に怪しまれますよ」


 いい助け船、ありがとう剛田さんデリカシー無いと思ってたことは誤ります。


「ほぼ毎日事務所に通ってくる少年のことだ、学友は少ない可能性が高い。よって数日なら誤魔化せると踏んでいる」


 名探偵怪人デカ女だ、美人じゃなかったらやっていけないと思う。


「…………そうなのか赤也君、学友は多い方が、その、なんだ何かと良いぞ?」


 助け船は無惨にも沈んでいった、やっぱりデリカシーは無いと思う。


「どっちもひどいですよ」


 事実を言われるのが一番傷つく、別に学友がいないわけじゃない。ただこの事務所が居心地が良くて、目的が有るから来ているんだけど、それを言うのは、はばかられた。


「まぁ土産話を持って帰れば、オカルト研究会のネタにはなるだろ。これで学友のルミちゃんと盛り上がるといい。」


「学友、知っているんじゃないですか!?」


「どうだ、探偵っぽいだろ?」


 薄汚れた探偵事務所の看板が窓から見える。


「とりあえず、身代わりの手配はしときますね。明日の朝9時に事務所前で、ここなら寝坊しても問題ないですし」


「バカにするな剛田、私も朝起きるぐらいはできる」


「はい、ということで今日は解散で」


「僕も今日は上がらしてもらいます、学友と予定が有りますんで」

 これは嘘だ、予定なんてない。精一杯の虚勢を張っているがそれはそれで虚しい。


「えーもう二人とも帰っちゃうのかい。寂しいな、よよよ」


 事務所のドアがバタンと閉まった。


「よよよ……。どうやら私は、悪いことしたのかな?」


 怪人はぽつんと取り残されている。


 一夜明け事務所がある雑居ビルの通りにつく、朝の日差しに照らされると薄汚れた事務所の看板でも少しは綺麗に見える気がした。

 雨が嫌いというわけじゃないが、小旅行とは言え旅行の日に晴れているのは一般的には良いことだろう。

 でも正直に言うと怖い思いをしたくはないし、微妙に乗り気ではないが、黒州と旅行に行けるというのは少し嬉しかった。歩きながらそんなことを考えていると、雑居ビルの前に紫煙をくゆらせるスーツの男が見えてくる。


 「おはよう赤也くん、時間より早いね」


 剛田はまだ長い煙草の火を消し、腕時計で時間を確認する。


「おはようございます剛田さん、煙草なら気にしないでください」


「悪いね気を使わせちゃって、とりあえず荷物はこの車に積んでよ」


 剛田は車のバックドアを開ける、何に使うのかよくわからない機材や箱に整頓された工具と剛田の物と思わしき荷物が乗っていた。少しスペースをお邪魔させてもらい荷物を置き、バックドアを閉める。


「結構大荷物なんですね」


「備えあれば憂いなしってことで、まぁ一番の備えは黒州さんだけどね」


「黒州さんは特別なんですね」


「特別だね、あの人だけってわけじゃないけど。黒州さんは協力的だし良い人だしね」


 黒州がどういう存在か剛田は知っているのだろう、間違いなく今の自分以上に、そのことが少し気にはなった。

 ここで剛田に聞けば言える範囲できっと教えてくれるだろう、でもそれはなんだか違う気がした。


「事務所の中には入らないんですか?」


「開いてなかったし、流石に鍵までは持ってないからね」


「それなら鍵開けてきますよ」


「おっ、それは助かる、俺はここで車見てるしついでに黒州さんの様子も見てきてよ。寝坊してる気がするんだよね」


「絶対に寝てますね」


 時刻は9時前。


 初めて来た時は気が付かなかったが、こんなビルでもエレベーターがついている。まぁ、あの時は好き好んでこんな薄暗い閉所に行く気は起きなかっただろうが。


 最近はこのエレベーターに乗り3階のボタンを押すのが日課となりつつある、狭いエレベーターがごうんと音を立てて動き出す。そういえばこのエレベーターで他の人と乗り合いになったことはない他の階は何が入っているんだろうか?

 

 エレベーターを降りて数歩、事務所の前に降り立ち鍵を扉に差し込み鍵を開ける。扉を開けたのがちょうど9時頃だ。


 事務所の中は静かで明かりもついていなかった、この事務所はビルの三階をぶち抜きで使っているのでなかなか広い。

 どこを探しても黒州は落ちていなかった、そうなると自室だろう。

 事務所の中から四階に上がれる階段がありそこが黒州の自室になっているのだ。

 もしかしてとは思っていたがこのビルは黒州の持ちビルなんだろうか? どういう経緯でビルを手に入れたのか、は気になるからまた今度聞いてみよう。


 階段を上がり扉をノックする、反応が無い。ドアノブを回すと鍵はかかっていなかった。一瞬躊躇したが好奇心が勝った、いやこれはそもそも時間に来ない黒州が悪いのだということにしておく。


 ドアを開ける。


 電気をつけると、乱雑に脱ぎ捨てられた履物がある、玄関だ。


「黒州さーん?」


 声は虚空に吸い込まれていき返事はない。履物を脱ぎ奥に進む、途中で廊下の電気をつけたが反応は返ってこない。

 廊下の奥に半開きの扉があった、間違いなくあそこにいるだろう。むしろ、なんで他の扉はちゃんと閉まっているのか。


 扉を開けて中に入る、暗い部屋の奥に寝ているであろう黒州が廊下からの灯りにてらされてうっすらと見える。とりあえず電気をつけた、これで起きるかもしれない。


 寝室の灯りはベッドの上に大の字に寝ている全裸の黒州を照らし出した。 


 すぐに扉はを閉め外に出る、見てはいけないものを見た、心臓の鼓動は早くなっている。


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