列車開通
「あの工事建設は中々難航しているな…。」
建設部長のTが言った。
「なにやら、このドルガバディン王国にとって初の、姉妹国、エルデバディンとの文化・商業貿易興行の記念すべき、第一号の列車の通るトンネルの建設ですからねぇ。」
と、部下の男A。
それから20年———
なんと!
未だに工事建設は成就していなかった!
建設部長のTはもう退職していた—
話せば長くなるが、20年前、この話の冒頭の、一番最初の建設事業は、突然の雷雨によるドルガバディン王国のエラス湖からの洪水により、建設中のトンネルが飲み込まれ水流に流され、工事どころじゃなくなってしまって頓挫。その2年後、再度、両国の交易のため、今度は天気予報士の天気予報、そして、晴天の巫女の呪術まで使って、今度こそ滞りなく工事を行おうとしたが、今度は作業中の整備士達が、猛烈な太陽光により酸っぱくなった弁当を食い、人員が全員、食あたりとなり、またも頓挫。そして、その2年後、今度は食事の衛生管理を徹底的に務め、万全の状態で両国は建設を再度はじめた…、が、かたちまで出来たトンネルの天井が突然、建設途中に崩れ出し、作業員20名が死傷。
着工計画から4年—、ドルガバディン王国の国王とエルデバディン国の国王は、今回ばかりは死傷者が出たことを重くみた他——、これは両国を開通させることを天の神様が阻止しているのでは?と、とうとう、神の呪いを疑う説まで出てきた—。
そして、それから16年の間、両国の貿易や文化交流は、神の怒りを恐れ、途絶えた——
しかし、ここで20年前、当時の建設部長Tの部下だった、Aが立ち上がった——
Aはドルガバディン王国の国王と、エルデバディンの国王、二人を訪ね、言った——
「確かに、なんど挑んでも、両国の交流を左右する汽車が通るトンネルの建設は失敗つづきです。しかし、考えてもみて下さい。神の怒り?呪い?もちろんそれもあるかも知れません。しかし、正確な手順を取って、最後に建設に取り組んだ16年前、あの時よりも遥かに合理的に、システマチックに進化した現代の技術を使えば、神をもしのげます。わたしが保証しましょう。もし、ダメだった場合はわたしを断首してもらってもかまいません。」
その形相にある種の驚愕と、ほんの少しの勇気を感じた両国王はそれを許可した——
そして、建設部長に就いたAは、汽車の通るトンネルの建設を16年ぶりに挑んだ——
Aには分かっていたのだ。
これは背後に人知の及ばない、ある神秘的なチカラが関わっているが故の難航だということを——
そして——
なんと、なんの自然災害、工事事故、負傷者も出さず、
トンネルが完成した———
国民一同「やったあ〜〜!神からの呪いは迷信だったんだあ〜!!わぁ〜い!!!」
Aもホッと胸を撫で下ろしたが———
まだ最終チェックが済んでいない——
そのことに気づいたAは、
A「国王様達!!まだ喜ぶのは早いです!確かにトンネルは出来ましたが、実際に汽車を通過させなければ、真の成功ではありません。」
国王含め、歓喜に沸いていた国王一同は、水を刺された、というように不快な顔つきを見せて——
「じゃあ、通してみろ。簡単じゃろ。」
と、ぶしつけに言った。
そして——
一台、無人の機関車をレールに流してみた。
すると———————?
なんと!
トンネルに近づくにつれ、何か見えない柔らかい何かに弾かれてトンネルを通過する前に、レール外に弾き飛ばされてしまったのだ—
国王「こ、これは?」
A「やはり…」
国王「やはり、とは?お主はこうなることが分かっていたのか?何か見えない結界のようなものに弾かれて汽車がレールを外れ落ちていく。なんたる神秘的災厄!!」
A「もういいです。」
国王「え?なんじゃ?」
A「全て話しましょう。」
と、一呼吸置いてから建設部長のAは話し始めた。」
A「これは、つまり片思いです。」
国王「どういうことじゃ?」
A「あなた、ドルガバディン国王は、姉妹国のエルデバディン国の国王が本当に我が国、ドルガバディンと交流したい、と思っていると?」
国王「なにを言っとる!エルデバディン国王はさっきトンネルが出来た時、心から喜んでおったぞ!?わしらは長い付き合いじゃから分かる。あれはまごころから喜んでおった。トンネルの開通を喜ばぬ訳があるまい!」
A「そう。それはその通り、確かにエル国王は心から喜んでいた。が、——しかし、です。エル国王の無意識、そうですね、潜在的無意識、もっと言えば、もう一人のエル国王。その方はあなたを殺したいと思っているし、交易などもってのほか、望んでおりません」
国王「な、なんじゃと…、それは、なんという…わしを殺したいほどに…?」
A「そうです。」
国王「あ、あとじゃあ、トンネルに汽車が開通しなかったのは、なんのカラクリじゃ?エルは魔法が使えるのか?」
A「おそらく、エルデバディン国の全魔道士を総動員して新しく出来たトンネルへの通過物の鎮圧をはかっていたのでしょう。」
国王「じ、じゃあ、お主はどうやってそれらの情報を知った?神通力でもあるのか??」
A「人海戦術ですよ。ちょっとエル国に人を二、三人スパイさせれば、それらの事実を知ることはぞうさもない事です。」
国王「わ、わしはどうしたらいい?」
Aは息を深く吸って——
A「とりあえず、エル国にとって最大のバッドエンドは、単純ですが、新しく出来たトンネルに汽車が通過すること。一台でも通過してしまえば、エル国はドル国と交易を取らざるを得なくなる。これでチェックメイトです。」
国王「しかし、あの結界をどう破るつもりじゃ?神でも呼ぶか?」
A「残念ながら、」
国王「残念ながら………?」
A「神はエル国の魔道士たちに味方しています。トンネルのあの強力な魔力もそのせいでしょう。」
国王「おお…、なんということだ…、神に見放された我が国に活路はないのか…」
A「いいえ、王様。時代は進んでいます。そして最もポピュラーな人気のある神がエル国に味方しているとして、
こちらにもとっておきの神がいるんです」
Aは王にこそこそ耳打ちして——
国王「ほうほう、そうかそうか、承知した!」
✳︎
エル国王「ドル国王、今回は非常に残念でした。でも、次は成功させましょうね」
ドル国王「今からもう一台、トンネルに汽車を送る」
エル国王「そうですか。上手くいくといいですが…」
そして———
エル国王「おおっ!あれは?先が尖った、…、なんと言っていいかわかりませんが、鋭利な先端を持つ汽車ですね」
ドル国王「エル国王、敵はもう一人のあなた。と言ってもとっさに理解できぬかもしれぬが、そちらに神がついているように、こちらにも神がついている。最も新奇な神がな!」
エル国王「???」
そうしている間にも汽車、もっと言えば先端ロケット汽車は加速を強めていった——
そして建設部長Aは自らそれに乗り込んでいた—
「そちらがいにしえの神ならこちらは科学、最先端の神、別名“機械の神”だあ!」
そして結界と汽車の先端が衝突!!
火花が散ったが、両者、一歩も引かない、拮抗した戦いとなった—
A「いっけぇぇ!」
最初は弾かれた、かと思ったが、
汽車の鋭い先端が柔らかい弾力の結界を放さない。
そして、二時間後——
ズギューーーン!!
エル国の“神”による結界は、現代の科学の先端に確かに宿る、“機械の神”により、確かに撃ち抜かれた——
そして、奇跡のように汽車がトンネルを通過して、エル国へ—
——ひとつの時代が終わり、そして始まった瞬間であった——
END