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梅に髑髏  作者: まめ童子
紫と尊
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其の五


 そうしてまた時が経ち、(たける)が目覚める日を迎えた。

 (ゆかり)は緊張のあまり顔面蒼白になっていたが、彼女の心配とは裏腹に、尊は自らの蘇生を受け入れ、紫と紅子(べにこ)との再会を喜んだ。

 彼は柔和な笑顔を見せて(みのり)に頭を下げる。


 「人形になることに否定的な人も多いでしょうが、俺はこうしてまた皆に会えて良かったと素直にそう思います。これからは紫と二人、与えられた命を大事に過ごしていきます」


 やがて二人は溢れんばかりの笑みを湛え、手に手を取って仲良く屋敷を後にした。

 その様子は、幸福そのものであった。

 しかしその姿を見送る稔はやはり少し悲しそうな顔をしている。その様子が気掛かりで、紅子は理由を尋ねてみた。

 だがそれには応えず、彼は表情を(かげ)らせる。


 「――このまま、二人が幸せだといいね」


 冬晴れの庭に、風に(あお)られた木の葉が一片(ひとひら)、そっと落ちた。


***


 尊と紫は、旅路の果てに小さな村へ辿り着くと、そこに居付くことになった。

 壮絶な経験をした二人だ。生死さえも乗り越えたその絆は固く、晴れて夫婦となった今も相変わらず仲睦まじく暮らしていた。

 穏やかな尊と涙脆いが朗らかで明るい紫は相性が良く、衝突することはほとんどない。そのうち、どこへ行くにも何をするにも仲良く寄り添っていたため、鴛鴦(おしどり)夫婦として村でも評判になっていた。

 春は花を愛で、夏はそよぐ風に微睡み、秋は実りに喜び、冬はただ降りしきる雪を眺める。

 そうして静かに、だが楽しく、流れゆく時間を慎ましく過ごしていた。


 ある日のことだった。

 紫が化粧台の鏡を見ながら髪を梳かしていると、何か用事があったのか少し遠くから夫が呼ぶ声がする。呼び掛けに応じて出向いても良かったのだが、尊は結局自ら紫の傍にやって来てくれた。それが何だか嬉しくて、彼女は夫を化粧台に手招きする。

 そうして二人で仲良く並んで鏡の前に座ってみた。すると彼らの姿が映し出される。


 紫は言葉を失った。


 鏡の中に居たのは白髪交じりの少しくたびれた年長の女と、艶やかな黒髪の溌剌(はつらつ)とした青年だった。


 (――私達、いつの間にこんなに違ってしまったのかしら)


 (にわか)に表情を凍りつかせる妻を、夫は不思議そうな顔で窺うように覗き込んだ。紫は慌てて笑顔を取り繕って、何でもないわ、と尊の背を押して化粧台を離れる。


 尊を生き人形にすると決めたときにこうなることは覚悟していたはずだった。だが、いざ現実として目の当たりにすると、その胸の内はざわざわと波打つ。


 (私はあとどれくらい、彼と共に居られるのだろう)


 ――二人に流れる時間は、最早、同じではないのだ。




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