表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
梅に髑髏  作者: まめ童子
紫と尊
26/30

其の四

 

 (みのり)たちが客間に入ると、そこには消沈した様子の女がひっそりと座していた。そしてその傍らには青白い男の遺骸が横たわっている。


 「君が(ゆかり)さんだね。よくここまで辿り着いたね」


 稔はそう紫に声をかけた。そして早速、(たける)の遺骸に触れて状態の確認をはじめる。


 「――大分、傷んでいるね。ここまで連れて来るのは大変だったでしょう」


 すると彼女はたちまち大粒の涙を零す。

 

 紫にとってここまでの道中は本当に辛いものであった。

 この屋敷は山の中でも奥まった場所にあり、(ふもと)からも遠く、訪れるにはなかなかに苦労を強いられる。しかも自らも手負いのなか、体格の良いの男の遺骸を運びながらとなると、それがいかに大変であったかは言うまでもない。

 しかもそれが想い人の亡骸とあっては、苦しさも増すというものだ。

 

 嗚咽を漏らすばかりで二の句が継げずにいる紫を労るように、稔は柔らかい声音でで言った。


 「大体の事情は聞いている。彼の製作は引き受けよう。――だけど君はこれから、どんなことがあってもそれを受け入れなくてはならないよ。もしかしたら彼に拒絶されて、最悪、命を奪われることだって有り得る。それでも、彼を人形にするかい?」


 紫はしばし瞳を揺らして考え込んだ。だが迷いを振り払うように首を振ると、しっかりと頷く。


 「あの人は私の全てです。どんな罪でも罰でも受け入れます。あの人に恨まれたって構わない。それでも私はあの人の居る世界に生きていたいのです」


 そう言って彼女は深々と頭を下げた。横で様子を見守っていた紅子も同じく頭を下げる。

 すると稔は一瞬、少し悲しそうな表情を浮かべたが、軽く目を伏せてから笑顔に戻ると、わかった、と一つ頷いた。


***


 泣き疲れてしまった紫を寝室に寝かせると、紅子は居間で茶を飲みながらぼんやりと庭を眺めている稔の後ろに黙って座した。


 紫と尊のことについては粗方(あらかた)話した。二人は恋人同士であること。そして彼らは紅子の生前の知己で、訳あって自分を探しに来たことを。

 しかし肝心のその訳というのを、まだ話せていなかった。それ以外にも彼に言わなくてはならないことが山程ある。だがいざ話そうと思うと、どこからはじめていいかわからない。


 紅子は口を開きかけては閉じるを繰り返し、結局黙り込んだままじっと稔の背中に視線を送っていた。


 「――そんなに見つめて、何かのお誘い?」


 そう言って振り返った稔はにやにやと笑っていた。真剣に悩んでいたのに茶化された紅子は反射的に、むっ、と膨れ面になる。それを見るとたまらず稔は吹き出した。

 紅子はいよいよ頬を紅潮させると、抗議せんと男に詰めよる。

 すると彼は不意にその手を取って引き寄せ、彼女を腕の中に招き入れた。突然のことに驚いた紅子は思わず彼を見上げる。


 月明かりに照らされたその顔は妖艶な美しさを湛え、(はしばみ)色の瞳が彼女を真っ直ぐ見つめていた。


 「何も言わなくていい。――僕たちの間には、()さえあればいいんだ」


 稔は甘やかに響く声音でそう言い、紅子の髪を一筋掬って優しく口づける。

 いままで見たこともない彼の姿に戸惑った彼女は、慌ててその腕から逃れると一目散に戸を目掛けて駆け出し、足早に自室に帰った。

 そして壁にもたれ掛かると、そのままずるずると座り込む。

 紅子は顔を覆った。そして思った。


 (――今が昼でなくて良かった)



閲覧ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ