其の二
大変間が空いてしまいました。どうぞよろしくお願いいたします。
紅子が意識を取り戻すと、どこから入ったのか先程の血塗れの女がじっと覗き込んでいる。彼女はまた悲鳴をあげかけたが、改めて女の顔を見ると絶句してしまった。
「――紫?」
それは数年ぶりに見た知己の顔だった。紫と呼ばれた女は、泣きそうな顔で微笑んで大きく頷く。
「お久しゅうございます。――雪梅姫」
だが紅子はそれを聞いた途端に目を伏せると、低い声で呟くように言う。
「――雪梅は死にました。今は紅子と名乗っています。貴女も、そう呼んでください」
紫はやはり頷くと紅子の手を握った。
「何もかも全て存じております。――紅子さま。またお会いできてよかった」
すると、いよいよ堪えられなくなったのか、紫はぽろぽろと大粒の涙をこぼす。紅子は困ったように微笑むと、顔に付いた血と涙を拭ってやった。
そこでふと彼女は紫が引き摺ってきたであろう傍らの男――最早、骸と化しているそれに恐る恐る目を向けた。そしてその正体に気がつくと思わず目を見開く。
「尊ではありませんか。何てこと――」
紅子が苦しげに発するのを聞いた紫は顔を覆って呻くように言った。
「私たちだけではどうにもなりませんでした。尊は私を庇って――」
二の句が継げず悲鳴のような嗚咽を漏らす紫を抱き寄せると、紅子はその背を擦ってやる。紫はしゃくりを上げながら訴えた。
「姫さま、貴女に会えた今、私たちの目的は全て達成されました。もう思い残すことはありません。あの人を失った私には最早生きる意味もない。どうか私を殺してください」
「何てことを言うのです。折角、尊が繋ぎ止めた命を粗末にしてはなりません」
だが紅子の叱責に激しく首を横に振って、紫は泣き叫ぶ。
「無理です。尊の居ない世界なんて、私には何もないのと同じです。どうか後生ですから私をあの人の元へ行かせてください」
そう捲し立てた紫は震える手で懐から短刀を取り出し、いきなりその切っ先を喉元にあてがった。
焦った紅子は、なりません、と鋭く叫ぶと素早く手を振って紫の手から短刀を叩き落とす。
自決する手段を奪われた紫は一瞬呆けていたが、たちまち滂沱の涙を流して紅子に縋り付いた。
紅子は小刻みに震える紫のつむじを見つめてしばらくじっと考え込んでいたが、彼女の背を撫でながら、ふいにその耳元で囁く。
「全て知っていると言いましたね。――ならば、その全てに、賭けてみませんか?」
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